第2話 理系でも文系でも国語は必要だと思う
「はぁ…」
国語、数学、英語のテストがあった
ちゃんと宿題の答え合わせをし、やり方を理解する
そうやって勉強すれば解けないはずはない、と以前先生に言われた
それなりに真面目で通っている私は勿論その通りにした
それにもかかわらずだ
もう一度点数を見る
「はぁ…」
何故だろうか
神は私を見捨てたのか
何度見ても点数は変わらない
18点
どうしてこうなった
「どうだったの?テスト」
「ため息二回ついてるとこを見てわからないの?」
「わからないわね、国語が死ぬほど苦手な友人がまたもや赤点を取ってしまっただなんて」
「分かり切ってるじゃん、いじめか」
ドヤ顔で千明がひらひらと91点のテストを見せびらかしてくる
とてもうざい
殴っても許されるんじゃなかろうか
美人な上頭もいいだなんて神様は不公平だ
あぁ、これでここ一週間は課題づくしだ
もう嫌だ…文学史プリントとか古文の文法プリントとか現代文プリントとかで埋め尽くされた部屋で過ごすのは嫌だ…‼︎
「にしても、苦手すぎない?20点以下の点数とったのこれで何回目?」
「中学の頃合わせたら17回目かな…」
「即答って…」
何回も何回も数えてるのだ
いい加減覚える
「なんで国語得意なの?」
「なんで国語苦手なの?」
「多分国語能力が欠如してるから」
「それ、日本人として致命的ね」
だって、何度聞かれても登場人物の気持ちがわからないのだ
例えば選択肢の問題
比較的正答率が高いと思うがその問題でさえ私にはわからない
登場人物が文章と明らかに違う行動を取っている選択肢があれば除外できる
だが登場人物がこの時怒っているのか悲しんでいるのか、どちらでもいけそうな時の判断の方法なんて知らない
古文に至ってはあんなもの外国語だ
その上情緒、というやつが絡んでくる
私に情緒がわかるわけないだろう
「まぁ、誰にでも得手不得手はあるしね…私も社会で地名を覚えていなきゃいけない問題とか、単純な計算は苦手だわ」
「それただ単に単純作業が嫌いってだけでしょ…なんとかなるじゃん」
結局のところ、千明はなんでもできるタイプの天才なのだ
ほぼ才能でどうにかなる上努力も怠らない
そのおかげか今までのテストで彼女が学年で30位を下回ったことがない
なんだこの天才と秀才を合わせた完璧超人は
羨ましい
「私だって長文とか気持ちを読み取る問題がなければきっと満点取れるよ」
今回のテストは大半を長文が占めてたから取れなかっただけだし
「漢字のミスがなければ20点は取れているのに?あなたの点数18じゃなかったかしら」
「気のせいだよ」
これは漢字のとめはねごときで罰にする先生のせいだよ
私間違えてない
へぇ〜と言いながら今度はトントン、と指でわざわざ91点(漢字満点)の記憶問題の回答のところを指し示す
こ、こいつ…‼︎
余裕の表情で油断しきっている千明の桜色の頰をギュムッと思いっきりつまむ
遠慮はしない
そのままぐぃーっと外側に引っ張る
「いふぁいいふぁい‼︎はふぁしふぇ‼︎」
「ごっめーんちょっと火星語はわからないんだぁぁぁぁ‼︎日本語で話してもらえるかなぁ‼︎国語が得意な千明さん‼︎」
「ふぁんふぁふぁふぇふぃふぉふぃいふぁふぉふぉあふぅふぉ?」
「何言ってんの?」
周りの目線が集まってきた
仕方ない、離してやろう
パッと手を離すと千明は桜色から林檎色に変わった頰をさすっていた
さすがにやりすぎただろうか
頰を抑えた状態でむーっとした顔で睨んできた
かわいいな
全くもって怖くない
美人は無表情だと怖いというが、睨んでも怖くない千明はもしかして美人じゃないのだろうか
…絶対に違うな
美人だわ
ごめんごめんと笑いながら謝っておく
しばらく先ほどの可愛らしい表情で睨んできた
だがすぐにはぁ、とため息をついて手を元に戻す
「ところでさっきなんて言ってたの?」
「あんた火星語知ってんの?って聞いた」
「なんだ」
「なんだって…」
私は目線をテストに戻し、三度目のため息を吐く
どうにかならないものだろうか
国語の先生は割と好みなんだけどな
「すきありぃぃぃぃ‼︎」
「んなぁっ‼︎」
突然頰を摘まれたと思ったらぐいっと引っ張られる
私がしたのと同じだ
やったのはもちろん千明
「さっきのお返しよ‼︎」
「千明め…私を本気にさせたなぁ‼︎」
「ふんっあなたごときどうとでもなるわ‼︎来なさい‼︎」
「ふふふ、あの世で後悔し…ろ…」
絶対零度の目で先生がこちらを見ていた
時計を見ると授業開始時間になりかけだ
ほとんどの生徒は静かに座って驚いたようにこちらを見ている
千明とアイコンタクトで会話し、言い訳を考えたあと
「「すみませんでした」」
素直に二人で謝ることにした