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金曜の帝国  作者: 由利 唯士
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メリンダ12

 メリンダは寮の自室でYouTubeの"ジェイソンチャンネル"を眺めながら溜息を吐いた。

 まだ正式オープンはしていないというのにジェイソンの立ち上げたチャンネルは既に大人気で、登録者もうなぎ登りだ。

 何しろ話題づくりが上手かった。

 プレオープンの動画の投稿と同時にクラウドファンディングを立ち上げ、動画の質の向上に視聴者を巻き込んだのがまず上手い。

 そして無料でライブ動画のテスト配信を始めたと同時にツイッターを始めたのだが、公式であることを隠し、本物かどうかを検証させることでまた皆を巻き込んだ。

『次は赤毛だ』

『次は聖女だ』

『後ろに注意しろ』

 などと微妙に曖昧な予告をしながらゲームを進めることで、長いライブに視聴者を飽きさせずに参加させ、フライデーランドのハッシュタグ「 #friday」は金曜夜のトレンド上位の常連となった。

 そしてあまりの話題ぶりに各メディアも注目し取材を試みたがジェイソンは全て断った。

 当然メディアは参加者に目を向ける。ひと通り過去の参加者の証言が取れると今度はフライデーランドの入り口で参加者にインタビューするようになった。

 夕方のニュースでそのインタビューが流れると更にライブの視聴者が増えた。


 加熱する報道に対してジェイソンはこうツイートしている。

『許可なく聖域(サンクチュアリ)に侵入した者には警告なしに発砲する。ドローンは射ち落す』

 フォロワーは絶賛した。

 たった数ヶ月でジェイソンはカリスマになったのだった。


 改めてメリンダは深く溜息を吐いた。

 取材を途中で打ち切った自分の先見の明の無さ加減に打ちひしがれての溜息だった。

 ここまでのムーブメントになった企画を初めから全て追っていればレポートはAプラスが確実だっただろう。

 しかもそのレポートはメディアがこぞって取り上げたことだろう。

 そうすれば就職にだって有利だった筈だ。上手く立ち回ればいきなりエグゼクティブクラスの仲間入りだって可能だったかもしれない。

 それが何だ。

 自分のミスに奮迅の努力をしてくれた相手に対して「なんだか恐い」などという甘ったるい怯えでバッサリと関係を断ち切ってしまったのだ。


 あたしは宿泊者の第一号よ!

 なんなら良い関係になったかもしれない女よ!

 だってあの時ジェイソンはあたしを抱きしめたもの!


 心の中でそう叫んでみても手元にあるのは中途半端で自意識過剰なインタビューと建設中のフライデーランドの写真のみである。

 母屋の前で撮ったジェイソンのみの写真、ジェイソンが撮ってくれたメリンダのみの写真はあるが、ふたりで写っている写真はない。

 改めて取材を申し込んだらジェイソンは受けてくらるだろうか?

 そんな訳がない。

 CNNやFOXの取材を断っているのだ。

 いち学生の取材を受けるメリットなど水素原子ひと粒ほどの価値もないだろう。


 ふと疑問が頭をもたげる。

 何故ジェイソンはあたしの取材を受けたのだろう?


 


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