バーンズ5
バーンズはジェシカの薪割り小屋の前で頭をひねっていた。
アフレックから連絡を受けて直ぐに自動カメラを隠して設置しておいたのだが、あれからフレディが現れていないようなのだ。
赤外線を感知して自動でシャッターを切る仕組みの赤外線カメラで、本来、野生動物の撮影のために使われる機能らしいが、勿論ヒトにも使える。
写真に撮影日時が残されるのを利用して、フレディがどれくらいの頻度で来るのか、月初めに来るのか月終わりに来るのか、何曜日に来るのか把握するために設置したのだ。
ジェシカを銀行に連れて行く第二・第四金曜日に薪割り小屋の軒下に設置したカメラのSDカードを交換し、署に戻って確認するのだが、暗闇に白く浮かび上がっているのはシカとアライグマ、あとはバーンズ本人くらいのものだ。
フレディに気付かれたかとも思ったが、こうして見てみると、やはり気付かれたとは思えない。古びた電動の薪割り機や、放置された生木で埋め尽くされていて、オリーブ色に塗装されたカメラのケースは全くといって良いほど存在感がない。レンズが覗く透明部分も野生動物が警戒しないようツヤのない加工がしてあるのだ。
借りに気付いたとしてもケースに取り付けられた南京錠を開けなくてはカメラ本体には届かないのだ。
南京錠をピッキングして解錠し、PCでデータを消し、再度写らないように元に戻す。
このようにすることは理屈でいえば可能だが、まずあり得ないだろう。
バーンズ自身も、セッティングする"どアップ"の自分の顔を毎回見させられているのだ。
いつフレディが来るのか、ジェシカに直接聞ければ良いのだが怪しまれずに聞く自信はない。
本来、死んだはずの息子が生きているのが当局に知れれば遺族年金は差し止められ、今まで受け取ったぶんも返却を求められるだろう。それは絶対に避けたいはずだ。変に話を持って行けばフレディが生きていたことすら認めなくなるだろう。
バーンズの隠し撮りの空振りが続き、すっかり暑くなって来たある日、ふと気づくとオフィスの入り口に副保安官のリックが立っていた。いつもの嫌味なニヤニヤ笑いが頰に張り付いている。
「何かね、副保安官どの?」
バーンズが問いかけると、リックはもったいぶった態度で逆に問いかけて来た。
「ようバーンズ、あのきちがい猫ばあさんの世話はまだ続けてるのかい?」
いつものくだらない嫌がらせだろうと想像が付いたのでバーンズは落ち着いて応えた。
「ああ。ジェフスキーさんは大切な住人だからね、当然だろう?」
リックはヘンと鼻で笑うと腕を組んで大袈裟に驚いたように眉をあげて続けた。
「なら聞いてるんだろうが、ババアのところに余所者が来てるぜ」
ジェシカに客?
それはかなりの珍事だ。
「何者だねそいつらは?」
「知らねえよ。若いのがふたり連れ立って道を聞きに来たぜ。おや、その顔は聞いてなかったようだな。信頼の厚いこって」
バーンズは立ち上がり帽子を手にした。
「用はそれだけかね?」
リックはニヤニヤ笑いを大きくさせアゴをしゃくって返答した。
「ああ。あんたに報告しないで、いつだかみたいに発狂されると困るからな」
こんな挑発には乗らない。
「報告、感謝する。では失礼」
リックの横を通り抜け、受付のアリスに声をかける。
「アリス。ジェシカ・ジェフスキーの道を聞きに来た若者ってのは?」
アリスは一瞬なんのことか分からないようで動きを止めた。
「え、ああ。もう二時間も前のことよ。とっくに着いてるんじゃない?」
踵を返して出て行くバーンズの背中にアリスは続けた。
「あれは多分、学生のボランティアよ!」
バーンズは顔だけ振り返り、アリスに目顔で感謝を伝え、助手席にビニールシートが置かれたSUVに乗りこんだ。




