クラーク14
ケンジントン・クリニックではクラークたちが頭を抱えていた。
自分たちでは探し出すのは不可能と思われていた容疑者フレデリック・ジェフスキーが、一部の界隈ですっかり話題になっていたからだ。
クレアがいたずらにジェイソン・ヴォーヒーズの名前でネット検索をかけたところ、そのまんまジェイソン・ヴォーヒーズ名義で「フライデーランド」なる娯楽施設を完成させるクラウドファンディングを行なっていたのだ。
要は映画「13日の金曜日」をモチーフにした体験型アトラクションなのだが、その様子を撮影するためのビデオカメラが足らないということで投資者を募っているのだ。
そこには施設の簡単な説明と間取り、カメラの配置図、そして動画が貼り付けてある。
動画の内容はこうである。
おどろおどろしいBGMと共に湖から山小屋の映るショット。そこに「フライデーランド」の血文字が現れる。
カットが変わり小屋の外観がぐるりと映る。
それからカメラがグッと上昇し、フライデーランド全体の様子が俯瞰で映し出される。
かなりの広さがあることが分かる。
そしてプレオープン時の様子。
男女6人が様子を伺いながら玄関を開けて入ってくる様子。各部屋で次々とジェイソンに捕獲される様子。
これらは全ていわゆる監視カメラの映像だ。カメラは音声も拾っており参加者の声も流れる。
ジェイソンはお約束のホッケーマスクを被り、ボロボロに破れたミリタリージャケットを着ている。
映っている部屋がどこなのかは立体的なCGで解説が入る。
捕獲された者はみな盛大に叫び声をあげた後ゲラゲラと笑っている。
手錠のようなもので拘束されて連行される参加者の映像。またそれを隠れて見送る参加者の映像。
"監獄"と名付けられた部屋の映像。
捕らえられた参加者たちが、他の者が捕らえられる様子をモニターで観て、ゲラゲラと笑っている。
"監獄"に6名全員が揃い、お互いをハグする参加者。
そこに館内放送。
『ゲームはこれで終了だ。朝まで本館で休んでくれ。ちなみに監視カメラはまだ動いているので行動には気を付けて』
感想を述べながら"監獄"を出て行く参加者。
本館のリビングで寛ぐ参加者。
そろそろ寝ようかと立ち上がりかけたところで、例の『キ・キ・キ、、、マ・マ・マ、、、』という映画で使われたBGMが館内流れ、参加者たちは不安そうに辺りを見廻す。と突然轟音をあげて納戸の戸が開き、中からジェイソンが現れる。
絶叫する女たち、立ち尽くす男たち。
ジェイソンは黙ったまま本館から出て行く。
胸を撫で下ろしソファに崩れ落ちる参加者たち。
男のゲラゲラと笑うSEが流れてプレオープンの様子はそこまで。
画面が切り替わり見取り図の立体CG映像が流れる。
赤でカメラの位置が点滅し、カメラの撮影範囲がハイライトで強調される。そのまま見取り図がぐるりと回ると、意外と撮影範囲が狭いことがわかる。
廊下や階段などは全くの死角である。
グッと本館のCGが小さくなり、監獄のあるボートハウスまでの範囲となるとハイライトになっているところはごく僅かだ。
見取り図の横にカメラの配置表が出てくる。
リビングに4台。6室あるベッドルームに各1台。男女別の共有シャワールームに各1台。監獄までの野外に4台。監獄に2台。
合計18台のカメラで撮影していたことがわかる。
今度は見取り図に黄色の点滅がパラパラと増えて行くと、黄味かかったハイライトも追加されて行く。
これで死角はかなり減った。
廊下や階段はもちろん、ボイラー室や屋根裏部屋など移動可能な部屋は全て網羅し、外観を狙うカメラなども増強されている。
カメラの台数は倍の36台。
そしてカメラ増設の見積もりがアニメーションで表示されて行く。
カメラ代、撮影システムの再構築、HDDの増設、監獄のモニタの増設など、項目が次々と増えて合計金額も増えて行く。
チーンと音がなると金額は2万ドルで止まった。
そこでファンドの説明が始まる。
1000ドルコースは、6名での優先的な宿泊資格が与えられる。冷えたビール6ダースが飲めるBBQサービス付き。
100ドルコースは、春休みや夏休みの繁忙期の優先予約権。
50ドルコースは、宿泊客がいる時に行われるライブ配信の有料チャンネルの1年間見放題クーポン。
10ドルコースは、ライブ配信の3回無料クーポン。
その他に、PPV放送をしたいTV局がないか呼びかけ、また動画に入れるCM。部屋の調度品やポスターなど、いわゆるプロダクト・プレースメントをしたい事業者を募って動画は終わった。
そして驚くべきことにこのファンドは大成功を収めており、目標金額はとっくに達成し、倍額の4万ドルで投資を締め切っている。
プレオープンに参加した4組の様子はそれぞれ1時間に編集され無料で公開されており、プレビュー数は既に10万を超えている。
どうやらこのファンド自体がSNSで話題になり拡散していったらしい。
クラークはファンド募集ページからメインページに戻ると頭を掻きながら口を開いた。
「やっぱり違うんですかね。なんですか、このあっけらかんとした殺人鬼ぶりは?」
クラーク、クレア、アフレック氏の3名はこのジェイソン・ヴォーヒーズことフレデリック・ジェフスキーこそが、マイク・シュルツ氏を殺害した犯人ではないかと推測していたのだ。
アフレック氏がなんとか口を開く。
「どうだろうね。一切顔を出していないし、なんとも。しかしあれだね、この規模の施設を運用するのはひとりでは無理だろう?」
クレアも浮かない顔で応じる。
「どうでしょうか、繁忙期以外は金曜のみの営業。繁忙期も月水金だけですから、メンテナンスとジェイソン役くらいならなんとか回せるかもしれませんね。予約はネットのみ、料金は全て前払いの振込で、振込先も指定の会計事務所になってます。参加規約の送付先も弁護士事務所ですから、本人の負担は意外と少ないのかも知れません」
それ以上の意見も感想も出ることはなく、3人は帰途に着いた。




