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金曜の帝国  作者: 由利 唯士
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メリンダ10

 ボストンに戻ったメリンダは散々な目にあっていた。

 まず、フラナリティに残っていた友人たちに事の顛末を話すと大笑いされた。それはメリンダが望んでいた事ではあったのだが、ジェイソンへのインタビューの音声を聞かせたところ、メリンダ自身のインタビューの語り口が可笑しいと、そこに集中して笑われたのだ。


 曰く、

「どこのアナウンサーなのよ〜」

「ヒーローインタビューじゃないんだから!」

「内容が全くないわね〜」

「相手が何者なのか結局一切分からないじゃない!」

「セクシーぶって髪をかき上げながら質問している様が目に浮かぶ〜」


 などなど、大笑いしてひっくり返りながら指摘されたのだった。

 もちろんメリンダとしては真面目に取り組んだ結果だった。ただ、ナイトライン(夜のニュース番組)でのゲストへのインタビューをイメージして質問原稿を書いたので、あながち間違いではないかもしれない。でも、それってそんなに可笑しい?


 そして大学が始まると同じことを教授からも言われてしまったのだ。

「相手の事業プランを全く聞き出せていないのに勝手に目的に合わないと判断するとは何事だね? これではユニークな試みがあるかどうか他と比較することすらできないじゃないか」

 そしてさらにはメリンダの労働に対する金銭感覚についても言及された。

「人の時間を割いてもらうということは相手に金銭的損失を与えるということなんだぞ? 労働者にとって時間とはそのままマネーだ。例えば弁護士が相手だったら1時間に数百ドル払わねば話もできんのだ。このインタビューはフライデーランドの経営者にとって1営業日ぶんの損失だ。しかも建築作業が1日遅れるということは雇っている建築労働者の人件費も加算される。キミの相手方に出した損失は数百ドルに登るぞ?」

 その言葉を聞いて、よせばいいのにメリンダは余計な一言を挟んでしまった。

「ジェイソンさんはひとりで作業されているということなんで建築労働者ぶんは掛からないと思いますが、、、」

 それを聞くと教授が鋭く息を吸い込んだので怒鳴られるかとメリンダは身を竦めた。

 しかし教授は怒鳴ることなく大きなため息を吐いた。

「キミには社会人としての常識が全くもって欠如していることが分かった。よろしい、キミの他にも会社経営者に会う必要があるようなレポートを考えている者を集めて"常識講習"を早々に行おう」


 全くもってグウの音も出ない。

 だからこそ経営者に会うような調査は辞める、というように説明したのだがその部分は教授の耳には届かなかったようだ。


 更に悪いことは大学の彼氏であるエリックの機嫌がずっと良くない。

 おそらくフライデーランドでの一夜を疑っているのに、そうではないと言い張っているのだ。


「ねえ、ゴメンて謝ってるじゃない」

「何が? 俺は別に怒ってないって」

「じゃあ何を怒ってるのよ?」

「だから怒ってないっつの!」


 ずっとこの調子である。

 ちなみにここはエリックの住んでいるシェアハウスのリビングだ。個々の部屋に異性は連れ込まないことになっている。理由は"うるさく"なるからだ。


「別にヴォーヒーズさんとはSEXしてないってば!」

「それは分かったって。ただ外泊するなら連絡が欲しかっただけだって言ってるじゃないか」

「外泊ならずっとしてたわ。実家にね? それに連絡したところで何がどうだっていうのよ?」

「だから心配だったんだって言ってんだろ!」

「それはどうも。行き先ならちゃんと言って出たわ、両親にね! 何が不満なのよ? いきなり保護者ぶっちゃって、、、」

「実際に銃が盗まれたろ? 甘いんだよ考え方が!」


「あー、ちょっといいかな?」


 口を挟んできたのは彼のルームメイトのビルだ。さっきから犬も食わない痴話喧嘩をソファに埋もれて見物している。


「フライデーランドのオーナーさんのフルネームはジェイソン・ヴォーヒーズ?」

「そうよ?」

「それ偽名なんじゃないかな?」

「なんでよ?」

「知らない? 13日の金曜日って映画」

「ああ、主人公(?)がホッケーマスクの?」

「そう」

「知ってるけど、それが?」

「その有名な"ジェイソン"のフルネームがジェイソン・ヴォーヒーズ」

「マジか?」

「マジだ」


 エリックとあたしは喧嘩してたのを忘れて見つめ合った。何それ、怖い。


「ちなみに」とビルが続ける。


「舞台となった湖はニュージャージー州のクリスタルレイク」

「ええ?」

「じゃあ、フライデーランドってのは、、、」

「大量殺人の再来?」


 そう言ったあたしに男性陣からツッコミが入った。

「いやいやいや、それはないでしょ?」

「じゃあ何よ?」


 ビルが立ち上がって階段を上りながらながら答えた。

「フライデーランドは"13日の金曜日"をモチーフにしたテーマパークってことだ」


 あたしとエリックはまた見つめ合った。

「ビルは何処に行ったの?」

「さあ?」


 ビルはすぐに戻ってきた。手には大型のタブレットを持っている。


「ほらやっぱり!」

 ビルはけたたましく笑いながらソファに戻った。あたしたちもも両隣に追随してタブレットを覗き込む。


 画面には黒いバックに血みどろ文字でフライデーランドと大書きしてある。その下には白い極太ゴシック体でカミングスーンとある。画面中央にはホッケーマスクが浮かんでおり、その下のカウントダウンタイマーがチキチキと時を刻んでいる。


 「なにこれ? フライデーランドのオープンのタイマー?」

「いや、多分情報公開のカウントダウンだろう。最近こういうの多いんだ」


 ビルは計算機を立ち上げて何か計算すると、今度はカレンダーを立ち上げて「ほほっ!」と奇声をあげた。

 エリックが興味深々という感じでビルに問いかける。

「なんだよ?」

「情報公開になるのは来月の2週目の金曜日。つまり13日の金曜日だ」






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