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サザンクロスの英雄 7


 大きいのと中くらいのと小さいのと。あと人間の姉妹が森の木の上でオカリナを吹くアニメ映画とか。目玉をほじくられる歌。

「やっぱすごいねー、アニメとか映画って、ひとを注目させる上ではこれ以上なく効果的だよね」

 テレビに釘付けな子供たちを見て姉がこそっとささやいた。

「だね。続けてユキが関わったやつも流してみれば?」

「今思ったけど私が関わった作品って全部必ず銃器やもしくは爆発シーンがある」

「そんな馬鹿な……あ、あれ?」

「殺し屋とかやくざとか軍隊とか詐欺師とか忍者とか侍しかいない」

「い、言われてみれば……」

「見も蓋もないことを言わせてもらうと」

「な、なに」

「ネタにしやすいんだろうね……」

「……もうやめようかこの話」

「だね、やめよう」

 だがよくよく考えるまでもなく、世の中には恋愛映画だって数多く存在するのだ。一本くらいそういうのに当たってもよかったと思うのだが、そこはもう姉の運がよかったのか悪かったのか。このひと、ガチの恋愛映画は苦手だもんな……。

「ホラーはなかったの?」

「……」

「あったんだ?」

「……何日か応援で呼ばれたことはあったんだけど」

「ど?」

「……怖くて無理。無理矢理違う仕事入れて断った」

「裏側は怖くないでしょ……」

「絶対嫌だ。テレビから出て来る」

 姉が未だに自分の部屋にテレビを置けない理由がそこにあることを、果たしてどのくらいの人間が知っているのだろうか。変なところこのひと弱いんだ。

「トウマは?」

「え?」

「将来、どんな仕事をしたいの?」

「……」

 受け取った手紙。隠した言葉。

 押し殺したそれ。

「……まだ、わかんないな」

「そっかあ」

 自分が今、どこに立つべきかもわからないのに。

 曖昧に笑うと、姉はやさしく微笑んでくれた。

 それだけが、救いだった。




「実は熊が出たんだ。だから絶対に森には入らないように。もちろん夜も駄目。熊は危険なんだ。わかるね?」

 映画を観終わった子供たちに至極真面目な表情でトーマスは言い聞かせた。

「知ってる!」「前叔父さんの家の近くに出た時叔父さん猟銃持って飛び出してった!」「あのね、八つ裂きだったの!」最後の発言どうなんだろう。気になるのだけれど訊いていいのか悪いのか。

 夕方になりつつある外、本当ならば気持ちのいい温度の中、作った料理を外にテーブルを並べ食べたかった―――のだが。熊がいるのでは仕方がない。

「ね、ユキ! これなあにっ?」

「これはね、ちらし寿司、だよー」

「スシ? これもスシなの?」

「そう、おいしいんだよ。たくさん食べてね」

「これはわかる! フライだよ!」

「天ぷら、って言うんだよ。フライよりあっさりしてておいしいんだ。このタレをちょっと付けてから食べてみて」

「ユキー」

「なあにー?」

「……ほんっと人気者ね、あなたのお友達」

 少し疲れたのかスーが小声で言った。表情がに薄っすらと疲労が滲んでいる。

「子供の相手ってずっとだと疲れるじゃない。しかもこの人数」

「ああ……確かに」

「でもずっと自然体で楽しそう。保育士とか向いてるんじゃない。ひとと向き合う仕事とか」

「んー……なのか、な」

 確かにカウンセラーとか向いていそうだけれど……個人的にはやめてほしかった。ただでさえ秘密や言わないことのきっと多いであろう姉なのだ。守秘義務が多い仕事には……いや、映像業界も守秘義務の塊みたいな仕事だが。

「どこで知り合ったの?」

「え?」

「えって。ユキとよ」

「あー……えっと。……俺が日本に住んでた時」

「何年か住んでたんだっけ?」

「そう。学校にも通ってた。その時近くに住んでて、そこから縁が続いてて」

「素敵ね」

 嘘は言っていない……はずだが、この場合真実を知られた時「嘘吐き!」と言われるだろうなあとは思った。ひとつ屋根の下、子供部屋は隣同士だった。近くに住んでいたのひとことで済ますには問題がある。

「どうして今ここにいるのかしら」

「……」

「長期休み? 仕事、してるのよね。大人になってもこうやって海外へ行くって憧れる」

「……だね」

 曖昧に。けれど、心から。

「しかも料理上手! 男には困らないわよね」

「……かも」

「小さくてかわいいし、眼も髪もすっごく綺麗で不思議な色。今まで見たことないわ。ちょっと吞まれるくらいびっくりしちゃった。東洋の神秘かしら? 人当たりもいいし、どこに行ってももてるでしょうね」

「……」

 やばい。わかってはいたことだが心配になってきた。そうなんだよ姉は無意識のひとたらし、老若男女問わずそして歳下には本当に甘い。激甘だ。甘え下手だがそれだって余裕のある歳上の人間から見たら不器用でかわいい一生懸命な女の子にしか映らないだろう。何でもしてあげたくなるような女の子、ではなく、何でも立ち向かう様を隣で手を繋いで誰よりも近くで見守りたくなる、そんな風に思わせるのが姉だ。本当どうしようこのひとたらし。

「……、」

「え?」

 じっと姉を見つめて、スーが何かを言った気がした。それは子供たちの声に掻き消され、聞こえず……聞き返したトウマの声もまた、スーの耳には届かなかったようだった。




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