サザンクロスの英雄 5
一番バンガローに子供たちが次々と集まって来た。元気をその小さな身体に押し込めた子供たちはぴょんぴょん飛び跳ねながら大きな声ではしゃいでいる。
「はーい、まずは改めて! 自己紹介をするわよ!」
姉に影響されテンションが上がって来たのか、スーが元気に声を張り上げた。
「あたしはスー。今日からよろしくね」
「僕はトーマスだ。日本文化をみんなで楽しく学ぼう!」
「トウマ。日本で暮らしてたことがあるから、何か訊きたいことがあれば訊いて」
「ユキ。去年まで日本で暮らしてた日本人。トウマの次に日本に詳しいよ」
くすくすと子供たちが笑った。ひょっとしたら大人の中で一番年下で自分たちに年が近いと思われているのかもしれない。……姉の童顔さは、本当、芸術レベルだった。
「さあ、あなたたちも! まずは男の子たちから! さあ、どうぞ!」
「俺はマックス!」
「ジョーイ!」
「リチャードだよ!」
「レオン」
スーが満足げに笑った。
「じゃあ次はガールズ!」
「コニーよ」
「ジェーン! よろしくね」
「モニカよ!」
「アビゲイル」
「オーケイ。みんな、楽しくやりましょう? ……それじゃあまず、みんなでご飯を作ろうか!」
昼食は簡単だがにぎやかなものになった。
全員自分の分のおにぎりを握らせ、好きな具を選ばせる。サーモンの人気が高く、中にはおかずであったミートボールを入れ巨大なおにぎりを作る兵もいた。米粒を手のひらいっぱいに付けて大騒ぎする子供たちに手水の存在を教えてあげながらぐるっと周ると、す、と姉が皿を差し出して来た。
シャケフレークが全体にまぶしてある、ピンク色がかったおにぎり。
「……おにぎりだ」
「おにぎりだね」
うちのおにぎりだ、という言葉を裏に隠し、思わずほころんでふは、と笑う。子供たちがうらやましがったが譲ってやる気にはなれず、そのおにぎりを口いっぱいに頬張った。懐かしい。おいしい。久しぶりの、姉の作ったおにぎり。
「味付き卵がなくてごめんね」
生真面目な顔でこそっとそう言われ、ふぶっと口から米を吹き出しそうになった。
夕飯は散らし寿司と天ぷら、それに味噌汁になるらしい。サラダも付くそうだが断然人気は散らし寿司と天ぷらになりそうだった。昼食の後片付けに夕飯の下拵え。纏めてやっちゃう、と、姉は子供たちの前から一度退場する。ブーイングが起きた。
「ユキは? ねえユキは?」「ユキのところ行ってもいい?」「お手伝いするから!」……大人気だな姉。あとでみんなで手伝いに行こうねと宥め、紙芝居を片手にうずうずとしているトーマスの前に子供たちを並べ座らせる。
「さあはじめようか! これは勇敢な男の子の話、『モモタロウ』だよ!」
張り切って紙芝居をはじめたトーマスにやれやれしばらく休めるかなと息を吐き、キッチンへ向かった。もちろん姉を手伝うためだったが、既にキッチンにはスーが来ていた。眉を寄せ、あまりいい表情ではないものを浮かべ姉と話している。
「何かあった?」
「あ、トウマ」
気付いた姉に名前を呼ばれる。何気ないことだったが、その何気ないことがもうずっとなかったことなので心がきゅうっとうれしくなった。
「この近くで熊が出たらしいのよ」
「……熊」
スーの答えに自然とうわあ……という顔をになった。なるほど……。
「引き上げ……られないな、バスは一度返してしまったし……」
「夜は絶対外に出さないようにして……見回りも最低限になるわね。保安官たちがパトロールするらしいから、もし運がよければ問題はなくなるわ」
「……だといいんだけど」
まさかの熊。姉を呼んだことを後悔した。渋面になっていると「トウマ」とやわらかい声が自分を呼んだ。
「なに?」
「金平糖。あげる」
「……うん、ありがとう」
瓶に入った金平糖を姉が示したので、手のひらを出した。姉がその上で瓶を小さく振り、ぱらぱらと星屑を落とす。自分の手のひらにも同じように星屑を散りばめた。
「食べよう。おいしいよ」
「……うん」
口に含む。ぽり、という小気味のいい音とふわっと広がる甘み。おいしい。とても。やわらかく、やさしい味。
「……ユキ」
「なあに?」
「……ありがと」
ふは、と姉は微笑った。
「どういたしまして」
スーは不思議そうな表情でそれを見ていた。




