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サザンクロスの英雄 4


 子供たちの作戦会議は無事終わり、爛々と目を輝かせていた。にっこりと笑いながら姉は子供たちを見渡し、

「スタート」

 にやりと笑ってそう言うとスーが紙袋に手を入れた。指名制だと勝負にならないので各ペアに当て嵌めた数字を紙に書いて即席の籤にし、当たった番号のペアが答えられることになっている。運と知識のゲームだ。

「最初はー……三番!」

「『オリガミ』!」

「一ポイントー」

「やったー!」

 ジャッジは基本姉が、判断に迷う時はトウマと協議することになった。次々にスーが籤を引き、子供たちが答えて姉がジャッジしていく。自分? 基本的には表記係だ。

 『扇子』『箸』と言った「もしかして見えてた?」というようなアイテムも出る中『京都』『アキバ』が並んだ時は吹き出したし、『オタク』が出て来た時は普通に笑ってしまった。最近の子供が詳しいのかオタク文化はそれだけ海外でも根強いものになっているのか。『JK』と言われた時には流石に姉と協議になった。本当すごいな最近の子供って。

 結果、五ポイント獲得した少女同士のペアが勝ち彼女たちには金平糖が賞品として献上された。他の子供たちがどうなるかちょっとひやっとしたのだが、そこは姉もそつなく小分けされた金平糖を全員に配っていた。

 きらきらした星屑にしか見えない金平糖を前にし子供たちは歓声を上げた。少女たちはうっとりとして摘み上げ窓越しに日に翳したり、少年たちは水色ばかり集めて食べてみたり。ぽりっと口の中に入れて、広がる甘みに驚いたような顔になるまでが一連だった。

「あまい!」「ぱちぱちしない!」「すっごくおいしい!」

「でしょー。昔からあるお菓子なんだよ。さて、どうやって作っているでしょう?」

 考え込みはじめた子供たちはいくつか答えを上げた。きっとお砂糖が使われてるよね、でもどうやってこんな形になるんだろう? お砂糖を集めてぎゅっと固めるんだ。いやこれは絶対星が落っこちて来ているんだ……

 考えが出て来なくなった頃、姉は持っていたパッドを操作し映像を出した。再生させてから順々に子供たちに見せて行く。それは金平糖の制作過程の映像だった。これはトウマも見たことがないので最後に見せてもらった。こんな風に作っていたのか……ほう、と息を思わず吐くとスーもトーマスも同じようにしていた。

 姉はあっという間に空気に溶け込み、そして人気者になった。自然とやってのけるのだからすごいよなと、相変わらずのスペックの高さに舌を捲いた。




 到着した宿舎は森の入り口に建つバンガローだった。一番大きなバンガローの周りに小さなバンガローがいくつか建ち、宿泊はその小さな方ですることになっている。一番大きなバンガローは集会場として使う予定だった。

「はーい、じゃあバスの中で言った通り、男子は二番バンガロー、女子は三番バンガロー。荷物を置いたら一番バンガローに集合ね」

「はーい!」

 スーの言葉に子供たちはわあっとバンガローに走って行く。ずっとバスに乗っていたので動きたくてたまらないのだろう。

「それじゃあ僕たちも。僕とトウマが四番バンガロー、スーとユキが五番バンガローだ。でもとりあえず一番バンガローに行こう」

 そうか、知り合い、ということになっているのでバンガローが別なのか。……ゆっくり話したかったのだけれど。致し方がない。

「掃除はされてるのね」

「ああ。セッティングもね、ある程度はしてくれているんだ……荷物も送っていたしね」

 一番バンガローに入ると、確かにきちんと整えられていた。送ったという荷物のダンボールも部屋の隅に置いてある。

「ずいぶんたくさん送ったのね……」

 そのダンボールの数にスーがたじろいだ。

「何が入っているの?」

「これはね……とっても貴重なもので、お借りしたんだよ……僕も生ではじめて見るんだ……」

「な、なあに?」

 トーマスが怪しく笑いながらダンボールのひとつを開ける。緩衝材がたっぷり詰められていて、確かにとっても貴重そうな……「わあっ」とスーが声を上げた。

「これ、知ってる! オヒナサマ、でしょ!」

「その通り! 日本の伝統的な人形、『オヒナサマ』だ!」

 どーんっと効果音がしそうなくらい誇らしげにトーマスは言った。覗くと確かにそれは雛人形、三人官女のひとりだった。

「懐かしい」

 思わずそう言うと三人官女に釘付けだったスーが振り返った。

「これ、女の子のものよね? トウマも持ってたの?」

「えっと……」

 思わず一瞬視線を泳がしかけた。

「ほら、俺の母さん日本人だから」

「ああ、そっか。ママも女の子だもんね。いいなあ、こっちにはあるの?」

「いや、日本に置いて来たよ」

「残念」

 正確に言うと母のお雛様ではなくもちろん姉の雛人形だった。桃色や朱色も鮮やかな美しい雛人形で、三段雛だった。

 ちらりと姉に視線をやると、姉は微笑んだ。

「わたしも持ってるよ。よく飾った」

「……最近は飾ってなかったの?」

「三月だったからね」

「……?」

「季節の変わり目だから。体調崩しやすくて」

「……」

 それはいつからの話なのだろう。昔はそんなことなかったはずだ。

「ユキのオヒナサマは誰が買ってくれたの?」

「父と祖父だよ」

「へええ、二代からプレゼントされたのね」

 この場合の父と祖父はもちろん『御影』ではない。昔の母と姉の名字は何だったのだろう……まだ小さかったし父も名字で呼ぶことがなかったので知らなかった。

「これを並べるのを子供たちにやってもらろうと思ってね。きっといい経験になる」

「いいわね。でも男の子もいるのにゴカツニンギョウは用意しなくてよかったの?」

「ムシャはちょっと……格好いいと思うんだけどね、やめておいた方がいいと写真を見た妻に言われたんだ」

 まあ確かに少しわかる気がした。

「さあ、子供たちが来るぞ! たくさんプログラムを用意したんだ! 四日間よろしく!」

 楽しそうな笑顔でトーマスが言った。これから起こることを本当に楽しみにしていそうな、そんな笑顔だった。





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