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サザンクロスの英雄 3


 バスに戻るとトーマスは興味津々という様子で、スーはそれなりに、という感じに姉を出迎えた。子供たちは日本人が来たと大騒ぎだ。

「はじめまして。ユキ・ヒイラギです」

「よろしく、ユキ! 歓迎するよ! 三日間よろしく!」

 しっかりとした声でトーマスが言い握手を求めた。それに応じた姉はスーにも向き合う。

「どうぞよろしく」

「……よろしく。スーよ。あなた英語がとっても上手ね」

「ありがとう」

「トーマの知り合いなんですってね?」

「ええ」

「大事?」

「大事です」

「そう」

 さっきと同じ笑顔を浮かべ、スーは手をのばした。

「歓迎するわ、ユキ。あなたのこと好きになりそう」




 年齢を問われ二十五ですと答えるとトーマスとスーは絶句したあと嘘でしょうと叫んだ。そういえば年齢は言っていなかったっけ。

「あたしより年上なの!」

「スーはいくつなの?」

「十七よ!」

 八つも年上! とスーは衝撃冷めやらぬようにぶつぶつ呟いて、それからぐいっと姉の顔を覗き込んだ。

「わっ」

「なに、何の魔法を使えばこんな肌保てるの。あたし二十五になってこの肌でいられる自信ない!」

「ま、魔法遣いはわたしじゃないかな」

「……いるの?」

 まるで知り合いに魔法遣いがいそうな口ぶりだったので思わず訊ねると姉は小さく微笑った。トウマの知らない、何かを思い出すかのような面映ゆい笑顔だった。

「うん、いる」

 それ以上は語られない。す、と心のどこかが寂しさを感じるのを感じながら、そう、とうなずいた。

 姉を拾い、それから一時間もしない内に女子四人を無事に拾った。揃ったフルメンバー、ぎこちなかったのはほんの一瞬で、今は八人の子供のカーニバルだった。すごいな子供って。

「それよりさ。子供たち退屈してない?」

「あー、さっきまでジェスチャーゲームしてたみたいなんだけど……」

「そう……ようし」

 走行中のバスの中、すっと姉は立ち上がるとぱんぱんっと手を打った。

「知ってるものゲーム!」

 あまり通らないがその分やわらかくてやさしい声がぶるぶるうるさいエンジン音の中どうにか伝わって、子供たちはわやわやと顔を上げた。

「『日本といえばこれ!』っていうものを多く上げられたチームが勝ち! 隣の座席のひととチームだよ! 賞品はこれ!」

「なにそれーっ!」

「星? 星?」

「金平糖っていうお菓子だよ。どんな味がすると思う?」

「わかんない!」「星だからきっとぱちぱち弾ける味だよ!」

「さあてどうかなー? じゃあゲームやってみよう!」

 わあっと子供たちが一致団結した。五分あげる、と姉が言うと隣同士で話し合い出しはじめる。見事な手際に三人でちょっとぽかんとした。

「……ユキ子供の扱い上手いね」

「そう? ありがと」

「その金平糖どうしたの?」

「トウマとの電話のあと一時帰国した時買ったの」

「えっ、日本帰ってたの」

「うん」

 相変わらず姉の行動は読めなかった。やさしくて明るくて朗らかで、そして読めない。何でも言ってくれるようで奥底だけは言わない笑顔の秘密主義者。

「こっちじゃないもの見るとさ、ついつい買いたくなっちゃうよね。……まあ、金平糖は和菓子ってわけじゃないんだけど……」

「えっ、そうなの?」

「うん。カステラとかと一緒にポルトガルから……まあ、今はどうでもいいね」

「え、気になるんだけど……」

「語源はポルトガル語のコンフェイト。諸説あるけど、戦国時代に伝わったんじゃないかと。因みにコンフェイトは球状のお菓子って意味」

「……ねえ、ユキ。ユキって本当に喋れるの英語とドイツ語だけ?」

「英語とドイツ語だけだよ。ドイツ語も英語程ではないし」

「本当? フランス語とか実はマスターしてない?」

「ないよ……ねえ、スー。これ何となく買っちゃったんだけどいらない? もしよければもらってほしいんだけど」

「なあに……えっ、すごくきれい! 美しいわ! これ、センス、ね!」

 イエス、と姉は流暢に答えた。

「もし気に入ったなら……」

「すっごく気に入ったわ!」

「よかった。じゃあこれ出会えた記念に。でもね、ちょっとお願いなんだけど……」

 そこで姉は声を潜めた。こそこそっと小さな声で、

「子供たちにね、配ろうかと思って扇子たくさん用意したの。けどその扇子はワンコインのお店で揃えたから……スーのそれはきちんとしたお店で買ったから、比べるとこう、断然、ね、」

「オーケイ、隠しとくわ」

「ありがと」

 悪戯っぽく姉がはにかむとスーも笑顔を返した。あっという間に仲良くなった女二人の間にずいっとトーマスが割り込む。きらきらと期待する顔で、

「ユキ、あの、そのね……」

「トーマスにはこれをどうぞ。気に入るといいんだけど」

 姉が渡したのは一膳の箸だった。黒々とした木で作られた少し太目の箸。ぱあああっとトーマスの顔が華やいだ。

「オハシじゃないか! い、いいのかい!」

「どうぞ。気に入ってくれたらうれしい」

「気に入るとも! ああ、ありがとう!」

「どういたしまして」

「ユキ、俺は?」

「トウマには……」

 ふは、と姉は笑った。

「あとで何かお菓子買ってあげる」

「そ、そう……」





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