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もういいかい? 泣かない君 28


 ハンカチを買いに行きたいけどよくわからないから付いて来て欲しいと頼んだら七南はあっさりとうなずいてくれた。

「解決したんだね」

「うん」

「三日前に」

「な、なんでわかるの」

「三日前からいきなり誰かとにこにこしながら電話し出したりにやにやしながらメールしてたら誰だってわかるよ。いつ言ってくれるんだろうと思ってたのに三日も言ってくれなかった。三日も」

「ご、ごめん」

「・・・・・・三日」

「ごめんってば。・・・・・・ケーキも私が払うよ」

「ありがとっ」

 わざとらしいくらいきゃぴっと返事をされ溜め息を吐いた。適わない。いろんな意味で。

 身支度をし、以前行ったモールに再び行った。

「で、ハンカチあげるの? プレゼント?」

「ううん、前借りたから。返すの」

「・・・・・・新品を?」

「うーん、洗ったとはいえ女が使ったハンカチはもう嫌かなって」

「? ・・・・・・変わった子」

 七南は首を傾げた。まあ、確かに変わったひとかもしれない。

「どんな子? かわいい系? クール系?」

「え?」

「え?」

「・・・・・・ああ、言ってなかったっけ。男のひと」

「え!」

「七南の担当の美容師さん」

「ええ!」

「こないだたまたま公園で会って、その時借りたの」

「えええええ!」

 こんなに驚いた顔の七南を見たのは久しぶりかもしれない。

「そっか、言ってなかったね」

「言ってないよ聞いてない! え、え、いつの間にかにそんなことに」

「だから系統は・・・・・・今時の若者系?」

「いやお姉ちゃんより歳上だよ」

「あー、そっか。・・・・・・まあいいや、とにかく、ああいう系」

「あー・・・・・・わか、った。とりあえず。・・・・・・見るお店からして違うや」

「・・・・・・ごめん」

 すごすごとお店から出る。ここだな、と、いくつも並ぶメンズ系のお店から相応のものを選べるのは流石だった。

「こういうのとか、こういうのとかかな。服装見てると。・・・・・・借りたハンカチはどういう感じだったの?」

「うん、こんな感じだった。すごいね」

 うなずいてひとつ二つ手に取る。それなりに値段はするが質が良い。一応贈るものになるが、これだったらそれなりという感じだ。

 どっちにしようかな、としばらく悩み、グレーがかった色のハンカチにすることにした。色合いがきれいに思えたから。レジで会計し、ラッピングもしてもらう。

「これを機にとか、あるかもよ?」

「ないよ。女性得意じゃないって言ってたし」

「え? そうなの?」

 あれ、知らなかったのか。まずかったかな。

「うん。・・・・・・内緒ね」

「う、うん。・・・・・・あーでも納得、お客さんの中にも『絶対好きなんだろうなー』って子のアピールとか全部やんわり受け流してたもん。お客さんだからかなと思ってたんだけど違ったんだね。なんで美容師選んだんだろう?」

「・・・・・・なんでだろうね」

 言っていたけど、言わなかった。

 言う必要があるのなら、いずれ本人が言うだろう。

「・・・・・・お姉ちゃんと合いそうな気がする。色々考えてるところとか」

「私、そんなに考えてないよ」

「・・・・・・無自覚レベルかあ。敵わないなあ」

「え?」

「なんでもないよ」

「・・・・・・? あ、七南、今度髪切りに行く時渡してくれる?」

「え? お姉ちゃん渡しに行かないの?」

「うん。あんまり会いたくない」

 しっかりとうなずいた。

「私、あのひとが少し怖いのかもしれない」

「な、なにかされたの?」

「ううん、なにも。そういうのではないよ。ただ、あのひとは少し怖い」

「・・・・・・いいひとだよ?」

「そうだね。いいひとだと思う」

「それなのに怖いの?」

「うん。―――帰巣本能、なさそう」

「・・・・・・帰巣本能?」

「あのひときっと、女性どころか人間が嫌いだよ。桁違いのレベルで。どうして立っていられるのか不思議なくらい。・・・・・・だからかな。怖い」

「・・・・・・」

 七南はきょとんとして―――ぽそりと、落とした。

「・・・・・・お姉ちゃんが渡して来なよ。渡すだけだよ。一瞬だよ。お休みの日会った場所に来てもらうようこっそりお願いしとくから」

「いやいいよ、そこまでしなくて」

「同じこと言ってる。怖いって」

「―――佐野さんが?」

「うん。―――こないだ髪切ってもらった時言ってた」

 それはいつのことだろう。―――公園で会った時よりあとのような気がした。

「『弥子さん俺にとって少し怖いひとかもしれない』って。・・・・・・そんなこと言うひとじゃないからびっくりした」

「・・・・・・お互い怖がってるなら尚更会わない方がいいんじゃないかな」

「そうかな。・・・・・・戦争がはじまるわけでもないし」

 その言葉に、ほんの少しだけ納得してしまったのは確かだった。

「・・・・・・はじめてみようか?」

「戦争?」

「うん」

「無理無理、疲れるよ」

 その言葉にも、納得した。



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