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もういいかい? 泣かない君 25


「・・・・・・俺に言ったことの八割は嘘だった」

 蕪木が、やさしく笑う。

「俺に告白して来たことも」

「・・・・・・はい」

 うつむきかけて―――やめる。

 そんな資格すら、ない。

「彼女だったらお願いごとを聞いてもらえるんじゃないかと―――思いました」

 馬鹿を通り越して愚かだ。―――わかっていた。でも。

 三週間前に来た天音からのメール。

『一度でいいから、先輩に会いたいです』

 そのメールに、言葉に、なにも返せなかった。

 誤魔化しながら続けていた嘘。―――でももう、その嘘はなにもしないでもぼろぼろと崩れて削れて行って―――全てが崩れるのは、時間の問題だった。

 なにもない。弥子にはなにも出来ない。愚かな方法しか、もう。

 もう、これしか。

「・・・・・・知っていて、オーケイしてくれたんですか?」

自分のことを好きになってもらったら願い事を聞いてくれるかと思った。

なんでもするつもりだった。

けど、好きになってもらえるわけない。

私が私のことを嫌いなのに、好きになってもらえるわけがない。

「いや、なにも。・・・・・・でもね、告白して来てくれた時―――きっと俺じゃない他のひとのことを考えているんだろうなっていうのは、わかった」

 やさしく、微笑う。

「自分のことを、心の底から好きでいてくれるひとなのか、そうじゃないのか―――わかるよ。そういうひとが、どんな声で俺を呼んでくれて、どんな顔で、どんな眼で俺を見てくれるか―――知ってるから」

蕪木灯が―――天井へ向かって、空を仰いで、呼ぶ。


「みーさん」


それだけでわかった。それだけで理解した。


『ともり』


それだけでわかった―――それだけで理解した。

このひとがどれだけ蕪木のことを想っているのか。そして知った。―――こんなにも、名前を呼ぶだけでひとは愛情を込めることが出来るのだと。

その声を、呼ばれた名前を―――冬の日差しの中あたたかさを見付けた渡り鳥みたいに、眩しそうな顔をした蕪木が受け止める。

「みーさん」

弥子ですら、わかった。

だからきっと、そのひとにも伝わっただろう。

彼が―――蕪木灯が、どれだけそのひとを愛おしくて想っているのか。

「助けてくれてありがとう、みーさん。・・・・・・やっぱりみーさんはみーさんだね。頼りになる」

『役に立てたかな。そうだったら、うれしい』

ざらりと、ノイズがうなるように大きく走る。いっぱいに広がる風の音―――『声』は、彼女は今、とても広いところにいる。

『・・・・・・そろそろ電波がなくなるかも』

「みーさんはどこにでも行くね」

『かな』

小さく笑った声。やさしくて、あたたかくて―――やわらかく全てを包む声。

『ともり。―――待っててくれて、信じてくれててありがとう。―――愛してるよ』

うねるようにノイズが大きくなり、そして、切れた。

最後に抱きしめるような言葉を残して。

「―――俺も愛してるよ」

蕪木が呟いた言葉は、もう彼女には聞こえなかったに違いない。

けれど、届いている。・・・・・・それだけは、確かだった。



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