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もういいかい? 泣かない君 11


最寄りのバス停ひとつ手前で降りて、お弁当屋でひとつお弁当を買った。七南の分だ。肉が食べたいけど太ると言っていたのを思い出し低カロリーカツ丼というものにする。

「ただいま」

バス停ひとつ分歩いて帰ると、部屋は真っ暗なままだった。二十一時半。今日はバイトもないはずだし、なにもないならもう帰って来ている時間だが。どこかに遊びに行っている、のか。

来てないだろうな、と思いながらそれでも一応スマホを確認するが、案の定一件も連絡は来ていなかった。

小さくため息を吐いてディスプレイを消そうとして、蕪木に帰ったら連絡するよう言われていたのを思い出す。なんというか、本当、人間の出来が違う。やことは無縁の人種だ。

その慣れなさに少しむず痒くなりながら指をうろうろとさまよわせ、結局『今帰宅しました。今日はどうもありがとうございました。京子ちゃんにもよろしくお伝えください』という無難な内容に収める。比較的すぐに既読が付き、『よかった。またおいで。じゃあまた明日』と返事が来る。切りどころがわからなくて一瞬焦り、どうか蕪木から切ってくれと思いながら『はい、また明日』と返す。

今度はしばらく既読は付かなかった。三十分後、若干恐る恐る覗き込むと既読が付いていた。返事はない。ほっとした。スタンプなんて使わないし、切り方がわからない。

こういうところは既読が付かない分メールの方がまだやり易かったよなと思いながら嘆息して―――パソコンの方を、見やる。

メール。……ずっと、無視している。

「……」

染み付いた動作そのまま、パソコンを起動させて―――メールアカウントにログインする。

メールは―――一通。


『先輩へ


ごめんなさい。先輩の気持ちを無視して我儘を言いました。

もう、絶対に言いません。先輩は私の中でずっとずっと先輩です。

怒っていなければ、返事をください。

先輩との縁が切れるのは―――すごく、怖いです』


―――眼を閉じて。走る痛みを、堪えた。

その痛みはやわらぐことはない。眼を開けて、泣きそうになりながら、鍵のかかった机の引き出しを開ける。

丁寧に丁寧に書かれた手紙。

『先輩』『先輩』『先輩』


―――『先輩』


―――どうして。

どうして私は、あんなことをしたんだろう。



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