敷かれたレール
「曖昧で申し訳ないですが、国の大事を任される仕事をしてみたいです」
「診断の結果、国家情報研究のお仕事がお勧めのようです。一番の適性値。将来的には国の大事を担うことにもなるでしょう。他の適性についてもお知りになりますか」
「いえ、結構です。その仕事、真剣に務めさせていただきます」
「次の方」
「できれば働きたくないのですが……なんか、こうぶっちゃけ、あまり話もせずエロいものだけ見て過ごせる仕事とかないですかね……」
「診断の結果、映像倫理機構の検閲のお仕事がお勧めのようです。本人の趣向ともあっているようですし、いかがいたしますか」
「ああ! それいいですね! それにします!」
役場で列を並ぶ新成人たち。
コンピュータの診断結果に意気揚々と返答している。
「次の方」
遂に俺の番だ。
ああ馬鹿馬鹿しい。
「俺の考えなんてなんだっていいだろ。さっさと適性を教えろ」
「工学創造開発職がお勧めのようです」
「そんなもの誰がやるか。他の職は」
「それでしたら宗教学――」
「悪いが無神論者だ。他」
難癖をつけ勧められた職を次々と断る。
「――その他適性率にソートした職がこのようになっています」
「ふん」
ついにコンピュータが人々の職を管理するようになった。
求人と人が気持ち悪いぐらいにかみ合う。
適性を判断し最適な職を教えてくれる。その満足度は99.99%を謳っている。
誰もかれも安心して自らの行く末を導いてもらえる。
どの職を選んでもいいことになっているが、結果に逆らう輩のいないことに驚く。
夢追い人は、逆らっても問題ない。俺も診断結果には逆らうつもりだ。
だが夢追い人だからというわけではない。ただ今の体制が気にくわないだけだ。コンピュータなどクソクラエ!
レールに乗せられた人生など誰が送るか。誰があんなものに従うか。
どうせなら適性もない職を選んで、勝ち残ってやる。生き残ってやる!
――――
一年後、俺は原子力発電所の保守監視員だ。適性の無い仕事の中から選んでやった。
なにかというと楽ができるうえにやりがいもある。
俺が監視を怠れば国をも揺るがすことが出来るという快感も味わっている。
だが、そんなことするものか。俺一人で成し切ることはできないし、重罪のなかの重罪。
さらにコンピュータによる適性がなかったという判断は正しかったとされてしまうからだ。
そら見たことか。コンピュータの指示に従わなくとも適正の職を見つけられた。俺の力で!
――――
「さて、今日の職業適性検査の結果を教えてくれ」
「本日も寸分の狂いもなくふるいにかけることが出来ました。相対評価で上位5%のみが秘密裏のA級職を選択し、A級職を選択しようとした10.4%の人材も適性の職に誘導に成功しています。適性がないとわかっても夢を諦めきれず指示に従わなかった6.4%も半年以内に挫折の後に必ず適正の職に就く予定となっています。反従属派の2.1%も無意識に適正職を選択しています。以上です」
「ありがとう。全く、コンピュータ様様だな」