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お使いじゃない3

今回もちょっと短い

 早々に関所のある砦を後にし、二人は街道に馬を進める。

 去り際にリーンが何度も白隊長をもの言いたげに見つめていたが、ジルとしてはなんとも言えない。

 こんな事態になって、騎士団を離れて行動することに不満があるのだろう。手柄を立てれば一気に騎士に取り立てられる機会なのだ。

 彼女としては、白隊長になんとかジルを説得してもらい、館に引き返らせたかったに違いない。大公の目の届かない今なら、彼女一人を帰し、ジル一人で魔法使いに会いに行くことも可能かもしれないが、大国スティンが敵対している状況では、それも難しいだろう。

 直接兵を出してこなくても、クルクニの通行手形を持つものを神殿の名において足止めする。最悪の場合は拘留するかもしれない。護衛なしで進むのは少しためらわれた。

 幸いにもクルクニはここ五百年間は武の国として名が通っている。グレザカ一国の軍隊に遅れは取らないだろう。スティンが腰を上げる前に神殿騎士団を壊滅させたという魔法使いをなんとか連れてこなくてはならない。




 代わりの馬があるわけではないので、全力疾走させるわけにはいかなかった。それでもなるべく早くと馬を進める。ゲーノは翼のある鳥であることを忘れたように、ジルの馬のたてがみにしがみついて羽を休めていた。馬が小走りだから振り落とされないだけである。

 クルクニ領をでると街道は少し寂れた感じがした。クルクニの西の国境はオルドヴァイという王国だ。首都は目指すダルアランより更に西にある。ここがオルドヴァイからすると辺境であるからかもしれないが、豊かな田園が広がっていたクルクニと違い、なんとも物寂しい雰囲気が漂っていた。

 何となくだが、街道を歩く人々も、牛をひき野良仕事に励む農民も疲れているように見えるのだ。オルドヴァイはクルクニよりも広い領土を持つのにぱっとしない。いつも後継争いで中央がゴタゴタしていると聞いている。

 そんな中央のお家騒動が末端にこんな暗い影を及ぼしているのだとしたら、クルクニは為政者に恵まれた豊かな国なのだろう。大公として叔父を尊敬する部分と下半身がちゃらんぽらんな私人としての部分。私人としての関わりの方が深いジルとしては複雑な気持ちだ。


 当初泊る予定だった宿場を通り過ぎた。本国で突発事態が発生してしまった手前、とにかく早くライラ島のラーナ・プラヴァに会って、クルクニの味方になるよう説得しなくてはならない。


 館を出るときは趣味の延長の物見遊山的道中だったはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


「叔父上がみんな悪いよな」


「ゲ~!」


 ゲーノだけがジルのぼやきに答えてくれた。

 寂しい風景の中、日が少しずつ暮れていく。野営をするかもしれないと用意だけはあるが、できればちゃんと屋根があるところで体を休めたい。


「次の集落で宿を借りるぞ」

「かしこまりました」


 館の自分付きの侍女よりも、リーンはとても有能だ。彼女はジルの言葉に何も不平を言わない。今も先触れを告げるため一人馬で駆けていった。

  

 しばらくして十軒ほどの家がまとまった集落が見えてくる。村というには少し小さい。そのうちの一番大きな家からリーンが出てきた。大きいといっても大公の館の庭師小屋程度の大きさだ。

 リーンが話をつけた今夜の宿は、この集落の長の家らしい。大抵は近くの畑を耕しているが、街道沿いということもあって、旅人に茶や食事を出したり、今回のように一晩宿を提供することもあるようだ。茶屋を営むだけでは生活が成り立たないのだろう。

 中は思った以上に清潔な家だった。突然の客人も珍しくないのかすぐに夕食を供され、客間に案内された。しかし部屋に入る前に、扉の前で主人が何か言いたそうな表情でジルを見ている。正確にいうとジルの肩に羽を休めるゲーノを見ていた。


「若旦那さん、鳥を寝室に連れて行くのは、ちょっと……」


 主人にはそういえば家に入ったときから、ちらちら見られていた気がする。本当は鳥を家の中に入れることも嫌だったのだろう。


「すまない主人。ゲーノ今晩は馬達と寝てくれ」

「ゲ~ノ」


 ジルは主人に明かりを借り、ゲーノを納屋へ連れていく。夕食を食べている間に外は満天の星空になっていた。


「ゲーノ、きれいな星空だな」


 鳥に美醜がわかるのか。そもそも鳥目で夜目はきかないかもしれないのに、思わず誰かにこの星空の美しさを語りたくなった。考えてみれば夜に外にでること事態とても久しぶりなのだ。外に出たとしても大公の館は夜遅くまで灯りがともり、深夜であっても衛兵達がかがり火を絶やさない。きれいな星をゆっくりと見られる場所ではなかった。

 ふと何か物音がした。馬小屋の手前にあるくずれそうな納屋からだ。かすかに聞こえるそれは人の声のように聞こえる。


「助けて……」


 今度ははっきりと意味をなした言葉が聞こえてきた。

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