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お使いじゃない2

 グレザカはクルクニの東にある小国だ。大きさはクルクニとそう変わらない。国境を接しているが小競り合いが起きるような関係ではなく、逆に同盟を結ぶほど仲良くもない国だったはずだ。

 去年国王が代替わりして大公が戴冠式に招待されていた。ジルには大公から土産にもらった幸運を呼ぶのかどうか微妙な開運人形を、本棚の隅に放置しした記憶がある。開運には程遠い何やら薄気味悪い人形だった。


「大公の様子から、そんな隣国と揉めているようには見えなかったんだけどな。隊長は何か言っていたか?」

「いえ、何も……」


 騎士見習い程度には説明不要ということか。面倒くさがらずに自分が直接聞けばよかったと思うが仕方がない。


「多分国境までの使いだろう。関所に行って詳細を聞いたほうがいいな」





 国境は特に何かあるわけではなかった。東の国境は川だが、ダルアランに続く西の国境は平原に砦とその砦を取り囲むように村ができている。小高い丘に立つ砦は、周りをよく見渡せるようになっていた。

 関所には守備隊の兵と先ほど駆けつけたばかりの白隊長がいた。白隊長がもたらした情報のせいかピリピリと張り詰めた空気がこの場を満たしている。


「大公は私に対して何か言っていたか?」

「いえ、何も」

「それでは、我々は予定通りラーナ・プラヴァのもとにむかう。大公閣下の計らいだと思うがこの関所は前線から遠いだろう」

「それが……。宣戦布告してきたのはグレザカですが、裏にスティンがいます」


 東の大国スティン。かの国が大国なのは軍事力ではない。神殿がその政治の中心にある国だからだ。魔法使い狩りの急先鋒の国と魔法使いを祖に持つクルクニでは元々そりが合わない。過去に何度も戦端を開いた因縁のある国だ。


「もしかして、今回のことは私のせいではないよな。神殿が私を魔法使い扱いしてのことではないのか?」


 ジルに魔法使いとしての能力がないことは神殿側も知っている。大抵のものは十歳になるときに神殿の司祭によって、魔力があるかないかの審査をされる。普通は街の神殿の司祭が魔力を測る石をその手に握らせる。ジルのときはその家柄のためにスティンの大神殿から使者がきてその儀式を行った。

 あの時の神殿の司祭達の穢れを見るような目は忘れられない。血がほとんど薄まった大公家でさえもこの扱いなのだ。少しでも魔法使いとしての力が顕現していたらどんな目にあったかわからない。

 だが、いくら能力がないといっても神殿にとっては禁忌の学問である魔法学に、大公の身内が傾倒しているのは面白くないはずだ。因縁なんていくらでもつけられる。それがクルクニとスティンとのこれまでの歴史だった。


「今回のグレザカの件は、ジルディオ様のせいではございません。私も詳細は聞いていないのですが、大公閣下がグレザカ側から申し出があった婚姻を断ったのが原因です」


 心配して損した。

 ジルの口から大きなため息がもれる。大公に一番近い場所にいて、この状況に気が付かなかった自分を少し情けなく思ったが、理由が婚姻絡みなら話は別だ。叔父はジルになじられるのを見越してあえて隠していたのだ。


「その話ってしばらく前に、洗濯場の下女達が話していた噂話のことでしょうか」


 リーンが恐る恐るといった感じで口を開いた。


「グレザカの新しい国王の姉が大公閣下を大変気に入られて、あちらに滞在中ずっと閣下にまとわりついていたとか。下女は大公付きの方々から聞いたって言ってました」

「叔父上もなんで蹴ったんだ? いいかげん結婚すればいいのに」


 リーンだけでなく白隊長も含め関所の守備隊が微妙な顔でジルを見ている。


「グレザカの姉姫って、あれですよ。猛女とか醜女て言われてる人ですよ。あんなのがうちの大公妃なんて認められません」

「いくら国益のためとはいえ、大公閣下がかわいそうです」


 全女性に優しく接することのできる博愛主義の大公だから、そんな醜女と内外に轟く女性にも勘違いさせるほど甘く接したんだろうな。ジルにはその光景が鮮明に想像できる。

 そしてその尻拭いのために、怪しげな女魔法使いに救援をすがる使者としてジルを送り出しているのだ。一瞬でも叔父のことを先を遠く見通すことのできる賢公だと尊敬しそうになったのが馬鹿みたいではないか。


「あの人は恐ろしいほど女の扱いが上手いのに……」

「なんでもかの姫君は容姿というより性格に問題ありということですので、さすがの大公閣下も想定外だったのでは?」


 叔父の自業自得だが、それでクルクニが危うくなるとはどういうことだ。太陽公、賢公の名が廃るというものだ。


「どうも大公閣下と王姉殿下の愛情の行き違いにしか思えないんだが、どうしてそれが宣戦布告に繋がるんだ?」

「普通に断りの使者を出して終わりだったはずですが、スティンがグレザカの宮廷を焚きつけたようです。あちらとしてはグレザカは衛星国家ですから、神殿の息のかかった大公妃を送り込めると思ったのでしょう」


 やっぱりどう考えても叔父が悪いとしか思えない。お気に入りの侍女でもなんでもいいからとっとと結婚していればよかったのだ。

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