お使いじゃない1
やっと話が動き始めました
宿を出て、ジルとリーンは再び街道を進む。
クルクニからダルアランまでの道筋は、大きな幹線から枝分かれした街道であったから、すれ違う旅人もまばらだった。
ここから国境までは青々と茂る田園が広がっている。
のんびりとした景色を変えたのは、後方から聞こえてくる蹄の音だった。
「白隊長殿!」
馬上の男に声をかけたのはリーンだった。さすが見習いとはいえ騎士を目指すだけあって、ジルと話すときとは違い、とても凛とした声だ。ジルは内心、この少女は本当に騎士になる子なのだなと関心していた。
馬上の男はリーンに声をかけられても答えない。
「ジルディオ様、話を聞いてまいります。お側を離れますがご容赦を!」
あっというまにリーンは単騎で騎士を追いかける。ジルだって大公に鍛えられて、馬で全力疾走することもあるが、さすが騎士とその見習い、早い。二つの騎影はあっというまに小さくなっていく。
最初から追いかける気もなかったので、ジルは変わらずゆっくりと馬を進めた。クルクニで何かあったのかもしれないが、政は大公のお仕事だ。まだまだ自分には関係ない。
リーンはすぐに戻ってきた。初めて目通しされたときよりも表情が強張っている。
「大変です。グレザカが宣戦布告してきたとのことです」
目の前に広がるのどかな田園がとても遠い風景のように感じる。戦争が始まるかもしれないとはとても思えない。
「宣戦布告? 館では戦が始まりそうな雰囲気はなかったぞ」
「ジルディオ様、緊急事態です。一旦館に戻りましょう」
ジルにとっては寝耳に水の状態だが、私生活がどうあれ賢公の誉れ高い大公が他国と緊張関係にあることを気付いてないはずがない。不穏な空気があるからジルディオをこの国から遠ざけようとしていたに違いない。
目の前の不安そうにジルを見ている少女にしてもそうだ。平時であれば騎士見習いはみっちり教育され騎士へと育つ。だが一旦戦争が始まれば否応なく前線へ送られるだろう。女性には平等に優しい大公であるから、それを避けるためにジルの護衛につけたのだ。
「最近の騎士団の動きはどうだった?」
「戦が始まる感じではありませんでした。ただ幹部の方々は忙しくしておりました。私は大演習の準備のためだと……」
やはり、大公はこういう事態になることを事前に知っていたのだろう。
「ジルディオ様、すぐ館に戻りましょう」
「予定通りラーナ・プラヴァの元へ行く」
リーンは信じられないといった感じでジルを見る。
「失礼ながら、こんなときに役にたたない妖しげな道楽にふけるのはどうかと思われます」
「道楽ではない。たぶん大公はこのことを見越していたんだろう。戦力として彼女を味方に引き込めということだ。君も昨日の男達の会話を聞いていただろう」
多少話しに尾ひれがついているだろうが、神殿の騎士団を退けるほどの力があると今は信じたい。
古の魔法使い達は天を割り地を引き裂く力を持っていたという。はたして現在の魔法使いが同等の力を持っているのかどうかわからないが、彼女に戦力となる力があると信じたかった。




