この俺様がスマホゲームに課金をするわけがない!!
昨今流行りのスマホのゲーム、それは単純な操作とゆるいゲーム性によりライトなゲームユーザーを惹きつけることに成功した。なおかつスマートフォンという今ならばだれでも持っているデバイスをプラットフォームに使うことにより数多くの人間が遊ぶことが可能なのだ。
お陰で今の世の中、スマホでゲームをしていないほうが少数派という有り様だ。
「へっ、そんなブームにハマってたまるもんか! 俺は我が道を突き進んでるんだよ!」
そう言って、『流行りに染まらない俺格好良い!!』と粋がっていた俺はもう既に過去の存在だった。
気がつけば、俺のスマホには『アイドルマスター&モビルファイター』というアプリがインストールされているではないか。
これは悪魔の御業か! それとも謎の組織からの暗号か! もしくは、俺がこのゲームの元になったとあるアニメにハマったせいなのか!
察して知るべきである。
とにかく、俺はスマホのゲームをはじめてしまっているのである。
始めた当初は……。
「まぁ仕方ないけど、なんかやってみるか! まぁしゃーなしでやってやるよ!」
そんな上から目線だったような気がしないでもない。
このゲームは、パイロットである女の子を育成しつつ、モビルファイターと呼ばれるロボを強化して戦わせていくというものである。
昨今の家庭用ゲーム機のような派手な演出も、絢爛豪華なグラフィックも、涙を誘う映画を超えるようなストーリーも、そこには存在してはいなかった。
単純明快に、ただボタンをポチポチと押していくだけでオッケーという代物だ。もしかしたら猿でも出来てしまうかもしれない……
そう『クソゲー』なのだ。
なのに、なぜだか辞めることなくついつい続けてしまう……。
それは何故なのか!?
電車の中でも出来たり、ちょっとした休憩時間や、待ち時間で出来たり、うんこをしている最中にだって出来る。そんなお手軽だから……と言い切ってしまえるならば良かった。
しかし、このゲームの本質はゲームでありながらゲームとは別のところにあったのだ。
それは……
『課金ガチャ』
これに始まりこれに終わると言って過言ではない。
ああ、どうして人類という生き物は、確率という魔物の誘惑と戦うように作られているのだろうか……。
もはや、ゲームをやっているのか、ガチャを回しているのか、わからなくなってくる始末だ。
だが、俺は貧乏大学生だ。親からのありがたい仕送りと、雀の涙ほどのバイト代とでやりくりをしている身だ。
それを一回三百円などという、俺の一食ぶんに当たる金額をスマホ上のデータでしかないものに使えるわけがない。
だから、ゲームを始めた時からあるラインを引いていた。
『課金だけは絶対にしない!』
そこが大事なラインなのだ。
このゲームは課金をしなくても幾らかのガチャは引くことが出来る。
一番のレアを引き当てることは出来なくても、そこそこのキャラを揃えることは出来るのだ。だから、そこで我慢しておこうと、そういうラインをきめておいた!
はずだった……。
「おいおい、今回のウルトラレア……マジ高性能じゃねえか……。これあるとないとでかなり変わるだろ…‥」
そんな気持ちだった。
そう、最初はそんな気持ちだったような気がする。
ここからだ。
ここから俺の戦いは勃発するのだ。
第一次スーパー課金大戦の幕開けなのだ。
俺の心で天使と悪魔が戦いを始める。
「おいおい、こんなスマホのデータを手に入れて人生に何の意味があるというんだい? 後になってみれば虚しさしか残らないよ?」
「おいおい、家庭用ゲーム機でゲームを一個買ったとすれば六千円くらいはするだろう? それならば、それくらいの金額までなら課金しても問題ないじゃないか!」
「しかし、たかがこれは数字の羅列、たかがかわいらしいイラスト一枚ですよ?」
「そうだよ! かわいいだろ! このイラストすげぇかわいいだろ?」
「え……すげぇかわいいですよね……」
「だろ? 萌えだろ?」
「萌えですよね!」
おかしい、天使と悪魔が同じ答えに到達してしまっている。
これは一体どういうことなのか?
俺が萌豚だということなのか……それとも、もっと深い意味が、この世界の骨幹にも係る謎が、世界樹ユグドラシルに繋がる謎が存在しているのか……。
天使と悪魔はさておき、この時の俺はまだ冷静だった。
「お、おいおい、いくらかわいいイラストとはいえ、こんなのネットで画像だけダウンロードして眺めればいいだけじゃないか、わざわざお金を出さなくても……」
だが、人の所有欲というものはそんなもので収まるものであろうはずがない。
気が付くと俺は……。
千円課金しますか?
はい
いいえ
の選択肢を選ぶところまでスマホの画面を進めてしまっていた。
「たったの千円、そう千円だけだ。千円だけ課金しよう。うん、これで出なかったら諦めよう」
さて、五分後にこの言葉を言った男はどうなっていたか……。
「でねぇえよ! 糞がぁァ! こうなったら、出るまでやめられねえよ! それが男ってもんだろう!! あるんだよ、男の子には意地ってもんがよぉぉぉぉ!!」
知ってはいた。男の子の意地ってもんはこんな所で見せるべきではないということくらいは……。
だが、スピードの上がった機関車はブレーキを掛けたとしてもすぐに止まることなど出来はしないのだ。
俺は脳内麻薬を大量に分泌させながら、坂道をリニアモーターカーで転がるように落ちていった……。
一体合計でいくら課金したのか?
そんな数字に興味などなくなってきていた。
もはや感覚が麻痺してしまっているのである。
お金とは紙幣や硬貨という物体であるから消費をしたという感覚があるが、ネット上で減っていくお金とはまるで実体の無いもののように思えて、実感が薄いのだ。
しかし、世の中というものは非情で、月末に見事に口座から引き落とされているのだ。
インターネット社会恐るべし!!
「や、やったぞ! 出た! 出た出た出た出た遂にでた−!」
数十分後に、部屋の中で一人ガッツポーズを決め雄叫びを上げるキチガイのような男がいた。
勿論、俺だった…‥。
俺は何回回したかわからないガチャを経て、ついに欲しいキャラを引き当てることに成功したのだ。
「うんうん、かわいい! 格好良い! 強い! KKTだ!」
等と意味のわからないことを部屋に響き渡るような声で言ってみた。
この時の俺を鏡で見たならば、清々しく晴れ晴れとした顔をしていたに違いない。
こうして、俺の第一次スーパー課金大戦は勝利で幕を閉じたのだ。
これははたして勝利なのか?
そんな疑問が心をよぎる。
月末の支払いを見ても、勝利の凱旋気分でいられるのか?
来月の食費は大丈夫なのか?
もやしと塩パスタがメインの食事になってしまわないのか?
こんな疑問が心をよぎっては、俺の額に冷たい汗を流させた。
それでも、スマホの画面の中には、多大な金銭と引き換えにガチャで手に入れたかわいいキャラが俺に向かって笑っているではないか。
これぞ幸せ、これぞ充実、これぞ正しいお金の使い方!!
しかし、これはまだ戦いの序章でしか無いのだ。
来月にもすぐにガチャイベントは俺を襲ってくるだろう!
それに俺は真っ向方たち向かわなければならない!!
「よし、大学の授業を少しサボってバイトを増やそう!」
こうして、すぐに迫り来るであろう第二次スーパー課金大戦に俺は備えるのであった。