結婚式のサプライズは大抵失敗する
ガルディア王国。
隣のメルディア王国の姉妹国であり、たまに作者もうっかり名前を間違えてつっこみをくらう国ですが、現王であるリチャード陛下は当初こそ盆暗と陰口を叩かれていたものの、最近では名君として民に称えられています。
リチャード陛下がそんな変化を遂げたのは、愛妻である王妃様の功績であることは広く周知されていますが、その王妃様が現在絶賛お怒り中でした。
どれくらいお怒りかというと「失礼します」とドアを開けた文官がシンキングタイムゼロで「失礼しました」と即座に閉めるほどです。
まるで「邪魔するんなら帰ってー」と言われた芸人のようです。
「で? 何で隠してた?」
「えーそれはだな……」
床に正座させられている王様と、その前で仁王立ちしている王妃様。完全に目が据わっています。
腕組みをしたその左手の先には、フィッツガルドの皇帝陛下からの書簡。
例の「うちの勇者異世界の門開けるかも! やっべー! どうしよう!?」と書かれた書簡です。
「日本についての会議。私の故郷の会議だろ? 何で私に内緒にする!?」
「い、いや、話すつもりはあったんだ」
「じゃあ何故隠した!?」
「だ、だから……」
王妃様に詰問され、しどろもどろな王様。
まるで浮気がバレたお父さんのようです。
「……と思った」
「何だって?」
「……おまえが帰ってしまうと思ったんだ!」
王妃様に聞き返されて、半ば自棄に叫ぶ王様。
どうやら日本への移動方法が確立されてしまったら、王妃様に逃げられると思ったようです。
さすがみんなの期待を裏切らないヘタレです。
「は? そんなの当たり前だろ」
「グハァッ!?」
当たり前だろボケェと言われて胸を押さえて後ろに倒れ込む王様。
足は正座したままなので筋肉がすっごいストレッチされています。
「ただでさえ親を結婚式に呼べなかったんだぞ? 報告くらいしたいだろうが。孫が産まれたら見せてやりたいし」
「……え?」
しかし予想外の反応に復活し状態を起こす王様。
腹筋を利用してぐにゃりと起き上がるその様は実にキモイです。
「……戻ってくるのか?」
「当たり前だろうが!? おまえ私をどんだけ薄情な女だと思ってんだ!?」
夫が自分をまったく信じていなかったと知り、しゃがみこんでからのアッパーを顎に叩き込む王妃様。
かち上げられた王様が某セイントのように吹っ飛びました。
ここでその某セイントの歌詞を入れようと思ったのですが、某著作権団体が恐いのでやめときます。
聖○士☆矢ー!
「そうか! そうだな! よし! フィッツガルドに妻も出席すると返事をしなければ」
そして殴られたのも気にせずに、上機嫌で返信準備をする王様。
流石の立ち直りっぷりです。
「まったく。いつも強引なくせに何でこういう時はヘタレなんだ」
「それだけ王妃様を愛しているということでしょう」
王妃様の愚痴に苦笑しながら答える文官。
一連の騒動を当たり前のように流しているあたり、この文官も中々いい度胸をしています。
「しかし日本への門が開くなら、シーナ殿下とも再会できるということに気付いていなさそうですね」
「言うな。気付いたらさらにいらん騒ぎになる」
そううんざりとした様子で言う王妃様ですが、その可能性よりも先に王妃様に逃げられることを心配するあたり、王様のシスコンも以前よりは沈静化しているようです。
「しかしシーナ王女って日本の総理大臣と交際してるとかいう噂があったらしいからな。今頃結婚してるんじゃないか?」
「ハハ。そうなったら陛下が向こうの大臣に一騎打ちを申し込んでしまいますね」
そう言って笑う二人ですが、シーナさんの安達くんへの惚れっぷりを考えると、割と洒落になっていません。
でも相手は安達くんなので、一騎打ちを申し込まれても普通に互角に戦いそうです。
今日も異世界は平和です。




