城塞都市から広い世界へ旅立ちたい(ファンタジー脳)
「さあ、着いたわよ。ここがメルディア王国の首都シュエットよ」
「わあ」
目の前にそびえ立つ城壁を見て、海育ちなディレットさんは好奇心に目を輝かせながら声を漏らしました。
ちなみに前回フェリータさんが人間の足に変化する術を使えると言っていましたが、ディレットさんはそこまで高度な魔術は使えないのでカオルさんが押す木製の車椅子に乗っています。
どっから調達したんだとか深く考えてはいけません。
ウェッターハーン商会が一晩でやってくれました。
「何というか、ものものしいっすね」
一方のカオルさんは、街そのものをぐるりと囲う城壁や、門の前に立ち目を光らせている武装した兵士たちを見て少し不安そうな顔をしています。
「こっちの世界じゃ大きな都市はこれが当たり前みたいよ。何ったって戦になったら城だけじゃなくて市民も守る壁ですものね」
町そのものが城壁に囲まれた城内町というのは、日本人には馴染みが薄いものかもしれませんが、実は世界的には城内町より城下町の方が珍しかったりします。
これはオネエも言っている通り民衆を守るためであり、異民族との争いが絶えない大陸では当たり前のことでもあります。
では逆に何故日本では城内町というものができなかったかというと、日本という国で起きる争いはほとんどの場合は敵が同じ日本人。いわば内乱であり、民が殺されるという心配をあまりする必要がなかったからだと言われています。
そういう意味では、日本の戦というのは大陸の戦に比べれば、温情があり、敗者復活戦が普通に行われたりしています。
これが中国とかだったら、負けたら一族郎党皆殺し待ったなしです。
サツバツ!
「さ、いつまでも眺めてないで入るわよ」
「はあ。手続きとかいらないんっすか?」
そう言いながら、ディレットさんの乗った車椅子を押して歩き出すカオルさん。
そして先ほどから何故か「おす」が「♂」に優先的に変換される不具合。
さすが最近のパソコンは学習能力がたけえな(♂)。
「私は近衛騎士だって言ったでしょう。顔パスよ顔パス」
「あーそうでしたね。まあ最初は驚いたけど騎士ってのは納得っすね。先輩高校の頃は普通に優等生だったし」
バチコーンとウインクされて目が死んでるカオルさん。
まだオネエじゃなかった頃のオネエを知っているので、余計にダメージがでかいようです。
「何よその今は問題児みたいな言い方は」
間違いなく問題児です。
その言葉を辛うじて飲み込み車椅子を押すカオルさん。
そして押されながらも「きゃーきゃー」と初めて見る人間の都市に興奮してキョロキョロしてるディレットさん。
迷子になるフラグビンビンですが、カオルさんがしっかりと車椅子を握っているので心配ありません。
ただの筋肉と見せかけて、ちゃんと気遣いのできる紳士なのです。
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「おう! 久しぶりだな浅口!」
「タイム」
とりあえず荷物も置いて一息つき、じゃあ観光案内でもと王宮内に来たところで、一行は当然のように団長と遭遇しました。
「アレなんっすか先輩!? マコト先輩に瓜二つというかマコト先輩そのもの以前になんか親しげに名前呼ばれたんすけど!?」
「ああ。団長ったらなんかマコトの記憶ちょっと移っちゃったみたいなのよ。でも本人じゃないし、実は生きてたとか生まれ変わりとかでもないから安心なさい」
「むしろ本人だった方がまだ安心できた!?」
恩はあれども苦手な人物がまさかの分裂状態。
むしろ本人だった方がまだ対処法が分かるのでカオルさん大混乱です。
「まあそう言うな。私はマリーズ・ド・コメット。そうだな。親しみを込めつつ略してマコトと呼ぶがいい」
「何だよその無理やりな略し方!? 普通そこはマリーとかだろ!」
ドヤ顔で言う団長につっこむカオルさん。
登場当初は理不尽キャラの一角かと思われましたが、オネエと団長の前では弄られキャラ状態です。
「ああ? 先輩に対して何だその口の利き方は!」
「だからマコト先輩とは別人だろアンタ!?」
「部下の後輩は私の後輩も同然!」
「やっぱ中身ほぼマコト先輩だろアンタ!?」
調子に乗って弄りまくる団長に、混乱しつつもつっこみはやめないカオルさん。
どうやらオネエの奥さんのマコトさんも大体こんな感じのようです。
「ところで、その背に背負ってるのは槍か?」
「え? いや。これは漁に使ってる銛……」
「なるほど。じゃあ槍だな」
カオルさんは理解しました。
あ、これ何言ってもダメなパターンだと。
「いやー、ユーキは強いことは強いが素手だから逆にやり辛くてな。槍相手なら面白い死合いができそうだ」
「何で試合する流れになってんだ!? あと今試合の言い方おかしくなかったか!?」
「ワタシニホンゴワカリマセーン」
「それ言って本当に日本語分からなかったケースを見たことねえ!? というか日本語分からなくても勝手に翻訳されてんだろ俺ら!?」
「あらあら」
カオルさんの襟首引っ掴んで連行する団長と、それでもなおつっこみ続けるカオルさん。
その光景にオネエはかつての妻と後輩の姿を思い出したのか、微笑ましそうに見送っています。
「あれはしばらく戻ってきそうにないわね。しばらくその辺りを見て回って、後で回収に行きましょうか」
「うん。私お腹すいた」
「あらあら。じゃあ先に食堂の方に行きましょうか」
一方色気より食い気らしく、オネエに車椅子を押されながら空腹を訴えるディレットさん。
今日も異世界は平和です。




