風呂に入ってたらGが落下してくるという修羅場
お風呂。
紀元前5000年にはそのルーツが確認されており、世界各地に存在する文化ですが、中世ヨーロッパでは廃れてしまっていたものでもあります。
これはキリスト教の普及に伴い人前で肌を晒すことが禁忌となり、大衆浴場が廃れたため。また人口の増加により、衛生環境が悪化したためだという説もあります。
衛生環境が悪化したのならなおさら風呂に入った方がいいんじゃないかと思う人も多いでしょうが、当時は便や生活排水が垂れ流しになっていたため水が汚染されており、それが病の原因だと考えられてしまったそうです。
つまり水が汚い→汚い水で体を洗うから病気になる→じゃあ体を洗わなければいいじゃない! という結論に至ったそうです。
なんかもうつっこみどころ満載ですが、当時の人々に衛生管理の知識なんてなかったので仕方ありません。
「アスカは風呂に入りすぎだと思う」
さて、そんな風呂が廃れちゃってた中世ヨーロッパですが、異世界ではキリスト教は普及しておらず様々な土着の神が信仰されているためか、お風呂文化は廃れていません。
これには風呂好きに定評がある平たい顔族もにっこりです。
「はあ? 一日一回くらい普通だろ。命の洗濯けっこうじゃねえか」
「うん、そうかもな。でも俺が言いたいのはそこじゃなくてだな――」
しかしサロスくんとしてはアスカさんの頻繁な入浴は歓迎できないもののようです。
そんなサロスくんの愚痴を切り捨てるスクナヒコナ様。
しかしサロスくんは納得できません。何故ならば。
「――何でおまえとアスカが一緒に風呂に入ってんだよ!?」
「一人で入ったら沈むだろうが」
叫ぶサロスくん。対するスクナヒコナ様冷静です。
そう。サロスくんが納得いかないのは、アスカさんとスクナヒコナ様が混浴状態だからでした。
つまりはいつもの嫉妬です。思春期の少年は大変ですね。
「だからって男と女が一緒に入るなよ!」
「ハッ。おまえみたいな頭の中が煩悩塗れなガキと一緒にすんな。俺は風呂に入るときにそんな邪念はいだかねえ。死んでも湯につかれば生き返るくらい風呂を愛しているからな!」
「干しシイタケかおまえは!」
ドヤ顔で言い放つスクナヒコナ様につっこむサロスくん。
ちなみにスクナヒコナ様は実際一度死にかけたことがあるのですが、オオクニヌシ様が九州からひっぱってきた現在の道後温泉の湯につけられて生き返りました。
オオクニヌシ様といい、割と頻繁に死んだり生き返ったり神様も大変です。
「大体俺とアスカが一緒に風呂入ったところで間違いなんざ起こるわけないだろうが。俺をきっちり神様扱いしながらも最近ペット感覚になってきてんだぞ」
「自覚あったのか」
どうやらスクナヒコナ様は、最近自分の存在が魔法少女のマスコット的なものになっているのに気付いていたようです。
ちなみにアスカさんはアテナ様の加護はありますが、魔法の類は使えません。
異世界に来た日本人が脳筋ばかりです。
仮にパーティーを組んでもレベルを上げて物理で殴るしかありません。
というか仮にパーティー組んだらレベル上げの段階でドラゴンとか駆逐されそうですが、細かいことは気にしてはいけません。
「おまえは俺に無意味な嫉妬する前に、何かアプローチでもしろよ。ああ見えてアスカはおまえより年上でこっちの世界基準じゃ成人なんだから、このままだと弟扱いで終わるぞ」
「……何だって?」
アスカさんが年上どころか成人と聞いて固まるサロスくん。
ちなみに異世界では国によって僅かな差異はありますが、大体十五歳くらいで成人とされます。
つまり女子高生であり現在十六歳なアスカさんは余裕で成人扱いです。
対してサロスくんは十三歳。十年後ならともかく思春期な本人には深刻な年齢差です。
「え? 俺成人のお姉さんにタメ口きいて愚痴りまくってたの?」
「おう。もうはたから見たら生意気なガキにしか見えなかったな。あとお姉さんの前に神様にタメ口なのを反省しろや」
「……まーじーでー?」
衝撃の事実に頭を抱えるサロスくん。
アスカさんの中ではサロスくんは完全に近所の仲のいい弟分ポジションなので今更です。
「年上……成人……お姉さん……それはそれで……うん、ありだな!」
「お、目覚めたか」
しかし悩んでいるうちに何やら新境地に達したらしく、新しい世界の扉を開いちゃったらしいサロスくんと呑気に見守るスクナヒコナ様。
中学生くらいの男子は、年上のお姉さんに妙な幻想と妄想を抱いちゃうものなのである意味順当です。
今日も異世界は平和です。




