表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/526

日本にやってきた騎士四十人のその後


 某所にある自衛隊の駐屯地。


「気を付け!」


 号令に従ってピシャリと背筋を伸ばすのは、迷彩服を着た屈強な男たち。

 しかしその顔は明らかに日本人離れしていて、髪の色も金色だったり赤色だったり挙句には青色だったりと統一感はありません。

 それもそのはず、彼らは異世界人なのです。


 いきなり召喚され、人質をとったら総理大臣と皇帝陛下に鎮圧された騎士団の方々は、すったもんだの末に無罪放免となりました。

 そしてその扱いをどうしたものかと議論した末に『自衛隊に体験入隊させれば?』という総理の鶴の一声で行く末が決まります。


 確かに彼らは軍人です。中には続けて軍人でありたいと願う人も居るでしょう。

 そうでなくても、集団行動大好き日本人に馴染んでもらうには、自衛隊での訓練は有用かもしれません。

 だったら学校にでも行かせた方が良いのでは無いかという若手議員の意見は、騎士団の皆さんが成人以上おっさん未満ばかりなので却下されました。


「初めまして。今回の臨時教育隊の指揮を任されることになった生田一尉です。皆さん自衛隊の事はもちろん、他の事でも分からない事が多いでしょうから、気軽に相談してください」


 部隊長となる生田一尉の言葉に、騎士たちは不思議そうな顔をします。


(ずいぶんと腰の低い指揮官だな)

(それに若い)


 騎士たちにとって、偉い人というのは威張っているものです。

 故に違和感を覚えたのですが、それがこちらの流儀なのだろうと納得する事にしました。

 ちなみに若いと言われた生田一尉ですが、既に四十路です。

 海外で正直に歳を言ったら「嘘だッ!?」と言われるのが日本人なので仕方ありません。


「はい。では現場での指揮は私こと岩城二曹が担当します」


 続いて現れた岩城二曹に、騎士たちは目を光らせました。

 迷彩服の上からでも分かる筋肉質な体。にこやかでありながら隙の見えない鋭い眼差し。

 なるほどこれが自分たちの教官かと、一応は納得させる見た目です。


「今日は初日という事ですから、まずは皆さんの基礎身体能力から測ります」

「ほう」


 身体能力。

 なるほど客観的に軍人の強さを見るなら、分かりやすい指標です。

 ならば我々の実力を異世界に知らしめてやろうと、騎士たちは密かに闘志を燃やします。


「ではまず腕立て伏せから――」


 そして始まった体力測定でしたが、騎士たちは意外な苦戦を強いられます。


「そこ。手が開きすぎです」

「良いではないかそれくらい!?」

「腰上がりすぎです。もっと体全体を真っ直ぐに」

「ぐ……これならどうだ!?」

「顎が着いてない。ノーカウント」

「なんとー!?」


 陸上自衛隊。

 その体質を端的に表すならば『用意周到・動脈硬化』

 杓子定規な隊員たちからの指導に、騎士たちは抗議や唸り声を上げ阿鼻叫喚です。

 それでも流石と言うべきか、全員が自衛隊の最低ラインは突破しています。


「流石ですね。最近の新隊員だと規定に達しない者が多いのですが」


 にこやかに言い放つ岩城二曹に、騎士たちは畏怖すらこもった視線を向けます。

 それもそのはず。騎士たちが腕立て伏せの検定をしている二分間、岩城二曹は『こうですよ。こう!』と皆の前でお手本を見せ続けていたのです。

 要するに騎士たちの誰よりも腕立て伏せをしているはずなのですが、その顔に疲れはまったくありません。

『何この生物? 人間?』と騎士たちが思っても仕方ありません。


「さて、続いて腹筋の測定に移ります」


 腕立てと似たような事になったのは言うまでもありません。


「輝いてるな岩城二曹」

「レンジャー上がりの体力お化けだからなあの人」

「アレが自衛隊の普通だと誤解されなきゃいいけど」


 岩城二曹に扱かれる騎士たちを見て、他の自衛隊員たちが生温かい目でそんな事を言います。

 自衛隊。

 それは全員が全員ではありませんが、岩城二曹のようなお化けが一定数存在する魔境です。



 一方高天原。

 日本最古のヤンデレ妹の暴走は、騎士団の召喚が日本人を呼び出した性悪王を失脚させるためのナイスプレーだったと理解すると一応収まりました。

 そして颯爽と黄泉へと帰っていくイザナミ様。

 イザナギ様が黄泉を封じた岩とか在った気がしましたが、とっくの昔に撤去されたので関係ありません。


「……お父さん黄泉に蹴り落としたらずっと出てこなくなったりしないかな」

「さらりと酷い事を言いますね姉上」


 何度も説教をされてトラウマになっているのでしょうが、実の父を生贄にと目論む辺りあの母にしてこの娘ありといった感じです。

 内に溜め込む気質な分、爆発した時の破壊力はイザナミ様を越えるかもしれません。


「まあまあ。おふくろも帰っちまったし、久しぶりに飲もうぜ姉貴に兄貴」

「……うんそうだね。飲もう。飲んで寝ちゃおう」

「またですか? 最近ペースが早すぎると思うのですが」


 どうやら酒に逃げるのは人間も神様も変わらないようです。

 アマテラス様の背中がすすけています。


「飲み会と聞いて宴会部長アメノウズメ参上☆」


 しかし三柱に酒がいきわたり肴の準備も万全となったところで、一人の女神が乱入してきました。

 語尾に星が付いていますが、別に星神だったりはしません。


「……ツクヨミ。サルタヒコに連絡」

「はい」

「ああ冷たい!? 冷たいですアマテラス様にツクヨミ様!?」


 異様にハイテンションな女神様。

 この方こそかの有名な対引きこもり宴会神の一柱であり、日本最古のストリッパー(人妻)であるアメノウズメ様です。


「もう今日は私静かに飲みたいの。余計な宴会芸とかいらないの」

「いつになくテンション低いですねアマテラス様。ダウナーな雰囲気も素敵です☆」

「やめて。寄らないで。私そっちの気は無いもん!?」


 しなだれかかるアメノウズメ様を引き剥がすアマテラス様。

 ツクヨミ様が『キマシタワー』とか呟いた気がしましたが、スサノオ様は全力で聞かなかった事にしました。


「そんな事言って、私の裸に興味津々だったじゃないですかアマテラス様」

「あれは凄い神が居るって聞こえたからだもん!? 裸に興味あったわけじゃないもん!?」


 酒が入っているせいか赤くなりながら叫ぶアマテラス様。

 焦る素振りが逆に怪しいです。

 あまりの怪しさにツクヨミ様のボルテージが静かに上がり、一番破天荒なはずのスサノオ様の目が白くなっています。


「まあまあ。ものは試しと言いますし、とりあえず脱いでみましょう☆」

「んにゃー!? た、助けて!? おかあさーん!?」


 日本最高神に迫る貞操の危機(百合)

 このままではまたアマテラス様が引きこもって太陽が昇らなくなり、ツクヨミ様がテンション爆上げで月が沈まなくなってしまいます。

 日本の明日が地味にピンチです。


「どうも。お騒がせしました」


 数分後。

 アメノウズメ様は駆けつけたサルタヒコ様(旦那)に取り押さえられ、アマテラス様の貞操は守られました。

 ツクヨミ様がちょっと残念そうだったのは多分気のせいです。


「ちょっと離してよあなた!? せっかくの宴会なのにまだ私脱いでないし!?」

「脱がなくて良いから」


 肩に担がれたまま喚くアメノウズメ様。

 それを嗜めるサルタヒコ様は慣れているのか冷静です。


「そんなに脱ぎたいなら俺が見ててやる。……二人っきりでな」

「……もう。やだあなたったら」


 そしてその体勢のまま去って行くバカップル。

 夫婦仲が良さそうで何よりです。


「……リア充爆発しろ」


 そして日本最高神から放たれる呪詛。

 その後日本全国でリア充が爆発したりしましたが、死傷者はおろか怪我人もでなかったので朝刊をにぎわせた後忘れられていきました。

 ……今日も日本は平和です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品もよろしくお願いします。

スライムが倒せない
 とある田舎の村の少年レオンハルトは「冒険の旅に出たい」という夢を持っている。
そのため手始めに村の近くに出没したスライムで魔物との戦いの経験をつもうとしたのだが……。
コメディーです。
― 新着の感想 ―
怪我なく爆発するリア充w みてみたいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ