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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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トリックスターとかいうトラブルメーカー

「おまえたちに話がある」


 フィッツガルドのとある町の宿屋にて、そんなことを言いだしたのは、トオルさんこと雷神トール様です。

 対面に座るのは召喚勇者なマサトくんの仲間である魔術師ローザさんと、シーフのリーゼさん。

 あとついでにほとんど公認スパイなデュラハンさんもいるのですが、またトール様が何かやらかす気配を感じ取り、胃痛で顔色が悪くなっています。


 ちなみにパーティーのリーダーであり召喚勇者であるマサトくんは「何か落ちてないか探検してくる」と言って町の散策に出かけました。

 民家のタンスはさすがに漁らないものの、行動が完全にゲーム脳です。


「実はわしはアース神族の雷神トールなのだ」


 いっまさらだなオイ。


 実はも何も、元から隠す気絶対なかっただろアンタと言いたくなるような告白に、デュラハンさんは心の中でつっこみを入れました。

 トオルという表記ならともかく発音したらほぼ一緒な偽名といい、ことあるごとにミョルニル持ち出してたことといい、むしろばらす気満々だったのではないかとすらデュラハンは疑っています。


「そ、そんな! トオルさんがトール神だったなんて!?」


 うっそだろお前!


 優秀な魔術師であるはずのローザさんの反応に、再び脳内つっこみを入れるデュラハンさん。

 驚きのあまり危うく頭が外れるところでした。驚いた勢いで頭をスポーンと飛ばすのは魔王様もお気に入りなリアクション芸ですが、人間の前でやると阿鼻叫喚の地獄絵図になるので自重します。


「あー……トール神ね……知ってる知ってる」


 一方明らかに知ったかぶりしてるリーゼさん。目が新大陸発見しちゃう勢いで泳ぎまくってます。

 まあこっちは「神様? 信仰してほしいなら金くれ」というくらいの貧民出身なので、知らないのはある意味仕方ありません。

 それでも知ったかぶっちゃうのは、背伸びしたいお年頃な上に、マサトくんに馬鹿だと思われたくないからです。

 でもたまにそのせいでマサトくんに嘘知識をふきこんでしまい、デュラハンさんにお説教されてたりします。


「しかし何故今になって?」


 予想以上にポンコツだった女性陣は置いておいて、とりあえず話を進めるデュラハンさん。

 このパーティーはマサトくんはマイペースだしトール様は脳筋だし、ローザさんは天然だしリーゼさんはツンデレだしで、デュラハンさんが仕切らないと話が進まないのです。

 スパイで来たはずなのに、パーティーを仕切る羽目になっているデュラハンさんの胃壁が心配されます。


「うむ。実はな。そろそろアスガルドに帰って来いと言われてな」


 その言葉にデュラハンさんは内心でガッツポーズを取りました。

 もう心の中で「かーえーれー! かーえーれー!」のコールです。


「しかし未だ未熟なマサトを置いていくわけにはいかん。わしがそう言うとオーディン様は渋ったが、ロキも説得に回ってくれたために何とかこちらに居られることとなったのだ。うむ。持つべきものは親友だな」


 マジかよ。ロキ様最低だな。


 ちなみにロキというのはアース神族と巨人族のハーフであり、トール様と一緒に冒険したり、小人をだまくらかして宝物を奪ったり、トール様の奥さんの髪を切り落としちゃったりしたスサノオ様と大体一緒な神様です。

 ただしスサノオ様が高天原からの追放後にヤマタノオロチ退治などから英雄となったのに対し、ロキは神々と敵対し、ラグナロクと呼ばれる終末の日には巨人族を引き連れて神々に戦いを挑んでいます。


 そんな神なので魔族からも信仰を集めていたりするのですが、今回ばかりはデュラハンさんも信仰をやめたくなりました。

 トール様は親友とか言っていますが、きっと「こりゃ面白くなってきたぜ」と笑いながらこの脳筋を人間界に放逐しただけに違いありません。


「まあそんなこともあってな。しばらくはまだ共に旅をするおまえたちに、隠し事をするのはもうやめようと思ったのだ。おまえたちからすれば迷惑かもしれんが……」

「いえ。そんなことはありません! むしろ光栄です!」

「まあ迷惑なのは今更だし。トオルがトール神? だからって何か変わるわけじゃないでしょ?」


 そしてあっさりとトール様を受け入れるローザさんとリーゼさん。


 何で仕切るのはやらされるのに決定権はないんだろうな。

 そんなことを思いながらどこか遠くを見つめて精神がどっか行っちゃってるデュラハンさん。

 今日も異世界は平和です。


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