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ヤンデレな妹に死ぬほど愛されて夜も眠れないイザナギ様


 何の変哲も無いある日の午後。

 地方から東京へと向かっていた夜行バスの乗客乗員四十名が、忽然と姿を消してしまいました。

 普通なら集団失踪と騒がれる事件なのですが、ある出来事に慣れてきた日本人たちはある可能性に気付きます。


 ――これ異世界召喚じゃね?


「困りましたな」

「アマテラス様も召喚自体を阻止してくれれば良い物を」

「いや。世界を跨いでいるとはいえ、本来は人間同士の問題ですから。アフターフォローをしてくれるだけマシでしょう」


 そしてその事件は国会でも取り上げられ、どうしたものかと議論が行われていました。


「早急に対策をしたいところですが、その辺りはどうなっているのですか総理?」

「今のところはどうしようも。以前に召喚返しされたエルテさんにも協力を仰いだのですが、彼女は召喚師としては駆け出しらしく目立った成果はありません」


 ちなみにこちらの世界でも召喚はできるのかとやってみてもらったら、何故かライオン(雄)が召喚されました。

 一瞬騒然となりましたが、ライオンは偶然居合わせたグライオスさん(皇帝)に取り押さえられ事なきをえています。

 その後グライオスさんがうちで飼うと我儘を言いましたが、いくらなんでも無茶なので動物園に預けられました。


「あの、召喚された日本人も心配ですが……」

「『も』とは何だ。他に何を心配する事が――」

「……四十人召喚されたということは、此処に四十人召喚返しされてくるのでは?」

『……』


 若手議員の言葉に国会が沈黙に包まれます。

 一人異世界人が来るたびに大騒ぎだというのに四十人。

 もう蜂の巣を突いたどころかバル○ン焚いたみたいな騒ぎになるのは目に見えています。


「い、いや。アマテラス様ならその四十人に事情を説明してくれるはず」


 議員の一人が希望的観測を述べますが、あまりに絶望的です。

 前回一歩進んで二歩下がったアマテラス様です。

 今回に限って二歩も進んでくれるとは思えません。


「念のために警備を増やし――」


 その時でした。

 ぼふんっという気の抜ける音と共に、すかしっぺみたいな申し訳程度の煙が発生したのは。


「な、なんだここは!?」

「城は何処に行った!?」

「我々は家族を人質にとられて仕方なく王を守るため、義の為に反乱を起こした公爵と戦っていたはず!?」


 そして現れたのは、数十人からなる武装した騎士っぽい男たちでした。

 やはり事情説明は丸投げされたらしく、色々叫びながら周囲を見渡しています。

 説明台詞乙。


「来すぎだろ!?」

「アマテラス様仕事して!?」

「俺は神道をやめるぞ安達ー!!」


 一方の議員たちも、まさか武装集団が来るとは思わなかったので大混乱です。

 一部から信仰が失われていますが仕方ないね。


「ち、近寄るな貴様ら! こいつがどうなっても良いのか!?」

「ああ! 議長が人質にとられた!?」

「いやまいったねこりゃ」

「流石議長冷静だ!?」

「退避! とりあえず退避だ!」

「警察を呼べー!!」

「いやむしろ自衛隊では!?」


 大混乱な国会から我先にと逃げ出す議員たち。

 人質にとられた議長が一番冷静なあたり、流石は戦前生まれと言った所でしょうか。


 こうして起きた前代未聞の異世界人による人質篭城事件でしたが、警察や自衛隊が動く前に偶然居合わせたグライオスさんが無双して解決してしまいました。

 ちなみにグライオスさんが駆けつけるまでの間は、総理がいつの間にか奪い取っていた剣で騎士を何人か叩きのめしていました。

 流石は自衛隊最高指揮官です。


「いや、自衛隊最高指揮官ってそういう意味じゃねえだろ!?」

「うんそうだね」


 若手議員の常識的なつっこみは流されました。

 ……今日も日本は平和です。



「うふふ。それで、何か言い訳はあるかしらアマテラス?」


 一方の高天原。

 いつも平和なその場所に、夜叉が降臨していました。


「お、お、お、お母さん。あれは向こうの状況も切迫してたから仕方なくと言うか……」


 日本最高神であるはずのアマテラス様が必死に言い訳しているのは、日本と数々の神を産んだ国産みの神であり、黄泉の管理者であるイザナミノミコトです。

 穏やかに微笑んでいるはずなのに、背後からどす黒いオーラが噴出しています。

 日本最古のヤンデレは伊達ではありません。


「言い訳するんじゃありません!」


 ――えー?


 日本最古のオカンは流石の理不尽でした。

 三貴子は離婚成立後にイザナギ様が産んだ神なので厳密にはイザナミ様の子じゃ無い気もしますが、鼻をほじっただけで新しい神が生まれちゃう国なので細かい事を気にしてはいけません。


「まったく貴方という子は、昔から後先を考えずに……」


 そして始まるお説教。

 正座しているアマテラス様も心なしかヘタレています。

 このままではアマテラス様があまてらすさまになってしまいます。(手遅れ)


「まあまあ、そんなに怒ると皺が増えるぜおふくろ」

「――」


 割って入ったスサノオ様の言葉に、空気が軋むどころか割れる音がしました。

 死んだ後に外見のせいで夫に逃げられたイザナミ様に美醜に関する事は禁句です。

 とばっちりで人間が千人くらい呪い殺されるのですから、たまったものではありません。


「うふふふふふふふふふ。面白いことを言うわねスサノオ。ちょっとこちらへいらっしゃい」

「やだよ。おふくろ臭うもん」


 イザナミ様に臭いに関する事は(略

 もうイザナミ様激おこで空気が軋むどころか焦げています。

 このままでは高天原崩壊の危機です。


「うふふふふふふふ……アハハハハハハッ! 良い度胸ねスサノオ。地上で英雄扱いされて調子に乗っているのかしら。これは躾けなおしてあげなければ駄目ね」

「あっはっは。もっと力入れろよおふくろ。痛くも何とも無いぞ」


 狂ったように笑うヤンデレ神と、嬉しそうに蹴り転がされるマッチョ神。

 微笑ましい親子のスキンシップです。


「た、助かった……」

「まんま母親に構って欲しい反抗期の息子ですねスサノオは」


 矛先がスサノオ様に向き安堵するアマテラス様と、冷静に母親と弟を眺めるツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。


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