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異世界オネエ物語


 王国の西に広がる名も無き森。

 かつて交通の要所として街道も通っていたその森ですが、数ヶ月ほど前から誰一人近付かなくなっていました。


 原因はオーガ。

 人間の倍はあろうかという体格の鬼たちが、森を占拠してしまったのです。

 しかしそんなオーガたちも先日めでたく殲滅されました。


 主にオネエのせいで。


「あらやだ、こんなところにまで返り血が」


 オーガたちの死体が散乱する中でそう言って服についた血を拭うのは、背の高い男性です。

 体格も見事なもので、身に着けたチュニックが筋肉で弾け飛びそうになっています。

 もし弾け飛んだら『その服は誰が縫うんだい?』と文句を言われそうですが、オネエは自分で縫った挙句にフリルまで付けるので問題ありません。


「まったく洗っても落ちないわねこれは。ただでさえ服が少ないのにどうしてくれるのよ」


 そしてその体格の良い男性は何度も書いてある通りオネエでした。

 というかオネエでした。

 しかも残念なことに日本人だったりします。


 異世界に事故召喚されたオネエさんは、議員たちの予想通り逞しく生き抜いているようです。

 いくらなんでも逞しすぎる気がしますが、オネエだから仕方ありません。

 男の逞しさと女の繊細さを併せ持つ完全なる人間、ある意味アルダー。 それがオネエなのです。



「ユキ殿はやはり強いな」


 王都の下町にある小さな酒場。

 その酒場でオネエと卓を囲んでいるのは、王国の騎士団に所属する女騎士です。

 以前にオネエに危ない所を助けられたのですが、その際に強くて優しいオネエに惚れてしまったのです。


 しかし相手はオネエなのでその想いには応えてくれません。

 まったく罪作りなオネエです。


「是非とも騎士団に来てもらいたいのだが」

「またその話? ダメダメ、剣が使えない騎士なんて様にならないじゃない」


 そう、オネエはいつでも素手で戦っています。

 何故なら怪力過ぎて武器を使っても破壊してしまうからです。

『おまえはクー・フーリンか』とつっこまれそうですが、クー・フーリンさんが聞いたら『一緒にすんな』と抗議するに違いありません。

 というかクー・フーリンさんと一緒にしたらゲイ・ボルクがゲイ♂ボルクになってしまいます。


「しかし……ユキ殿は何故そのような趣味に?」

『!?』


 聞きました。聞いてしまいました。

 切実故に空気を読まずに切り込んだ女騎士の言葉に、酒場に居た他の客たちに緊張が走ります。


「秘密……と言いたい所だけど、今日は気分が良いから教えちゃおうかしら。

 ……私にもね、昔愛した女性が居たの」


 ――え、マジで?


 酒場に居た人たちの心が女騎士も含めて一つになりました。


「小さい頃からいつも一緒……所謂幼馴染ってやつでね。気の強い子で泣き虫な私をいつも守ってくれたわ」


 女騎士はどこからつっこんだらいいか悩みました。

 しかし話している本人が何か良い話っぽく話しているので、つっこむにつっこめません。


「そのまま大人になって、当然のように私たちは結婚したわ。もう二人が一緒に居るのが自然になっていたから」


 衝撃。

 オネエはまさかのノーマル既婚者でした。

 二重の意味で女騎士に大ダメージです。


「でも幸せは長くは続かなかった。彼女は死んだわ。まだ結婚したばかりだったのに」


 しかし話が重くなったので女騎士はダメージから立ち直りました。

 酒場の客たちも真剣に聞き入っています。


「その時の彼女の遺言がらしくてね。……『私を忘れて他の女と所帯を持ったら許さん』ですって」

「いや、普通は『私を忘れて新たな恋に生きて』と言わないか?」


 遺言というより呪詛が混じっているのは気のせいでしょうか。

 そこには女騎士も思わずつっこみます。


「そこが彼女らしいのよ。気が強そうに見えて寂しがり屋だったから。だから私も彼女の遺言を守った。……だけどまだ若かった私には、彼女を失って一人で生きていくのは寂しすぎた」

「……」

「だけど私は気付いたの。『他の女と所帯を持ったら許さん』……なら他の男と恋をすれば良いじゃない!」

「どうしてそうなった!?」


 過去のオネエの出した結論に、女騎士が絶望と共に卓を両手で叩きます。

 妻への愛ゆえに男に走る。

 何かもう書いてる方も意味が分かりません。


 ……今日も異世界は平和です。



「……ツクヨミ。ほんっとうにあの人何の加護も無いんだよね?」

「ありませんよ。ついでに魔力的な不思議パワーも無いので完璧に筋肉による力です」


 様子を見てみたら予想以上に強くなっていたオネエに、アマテラス様が再度確認しますが答えは同じです。

 どうやらオネエは素であの強さのようです。

 オネエよ神話になれ。


「まったく現世にあんな人間が居るとはな。異世界に行っちまったとは勿体無い」

「……」


 いつの間にか会話に混ざってきた声に、アマテラス様の動きが止まります。


「……」

「よう」


 そして無言で振り返ったそこには、でかくてマッチョな男性神。

 アマテラス様とツクヨミ様の弟。三貴子の末弟スサノオノミコト。

 母親に会いたくて泣き叫びまくってイザナギ様に蹴り飛ばされたり、高天原で暴れまくってアマテラス様を引きこもりにさせた超問題児です。


「……天岩戸――!?」

「まあ待てよ姉貴」


 数々のトラウマを思い出したアマテラス様は引きこもろうとしますが、末弟なのにアニキっぽいスサノオ様が逃がしてくれるはずがありません。

 首根っこを掴まれて猫のようにブラブラされてしまいます。


「んにゃー!? 離せー!? 根の国に帰れー!?」

「うちは娘婿に譲ったから暇なんだよ。だから姉貴で遊びに来た」

「私で遊ぶな!?」

「まあ良いじゃねえか。久しぶりにぷ○ぷよやろうぜ」

「!? ……は、ハンデありなら」

「……」


 ぶらぶらされたまま連れて行かれるアマテラス様を見送るツクヨミ様。

 薄情なようにも見えますが、スサノオ様はマザコンな上にシスコンなのでそこまで酷いことにはならないでしょう。

 それはさておき。


「あ、オモイカネ殿ですか? 姉上がまたスサノオに遊ばれてるので、宴会の準備をするように各神に連絡お願いします」


 姉弟邂逅=引きこもり=宴会


 高天原でしか通じない謎方程式が発動し、今夜は宴会が決定しました。


「ああ、あとアメノウズメ対策にサルタヒコ(夫)にも来るように連絡を。何かにつけて脱ごうとするのであの神。あとタケミカヅチに妙な一発芸をするなら事前に言っておくようにと……」


 着々と宴会の準備を進めるツクヨミ様。


 今日も高天原は平和です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍の挿絵見るまでオネエの外見をつけまつ毛とメイクバッチリのマッチョアフロだと思ってました。 そして高天原にスサノオ来ると宴会になるのね…
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