全ての文化は食に通ずる
※書籍化することになりました。詳しくは活動報告で。
予算審議。
名前通り内閣の提出した予算案について話し合う場なのですが、何故か政治家の汚職やらアイドルグループの解散について質問されたりと、中々にカオスな審議内容となっています。
おまえら先に本題話し合えよ。
「……ですから。一刻も早く説明責任を」
「あー、すまん。ちょっと構わんかの?」
「はい?」
そしてそんな審議が行われている最中に、突然リィンベルさんが野党議員の発言を遮り議会の真ん中に出てきました。
因みに着ているのは黒いパンツスーツです。
多くの野郎どもに期待された巫女服は「んなもん平時に着るものでは無かろう」とリィンベルさん自身に却下されました。
巫女さんは
平時も巫女服
着なきゃダメだろ!?
(季語:巫女服)
「な、なんですかリィンベルさん。今は私の質問時間ですから話なら後で……」
「異世界問題対策委員リィンベルくん」
「議長ーーーー!?」
一応正論で返した野党議員でしたが、議長がリィンベルさんに発言権を与えてしまったため質問時間はストップしました。
因みに異世界問題対策員とは議長がノリで呼んでみただけで、そんな組織はまだ出来上がってません。
「時間を取らせて申し訳ない。今アマテラス様より『今国会に異世界人召喚して良い? 良いよね? お願いだから良いと言って!?』という神託がきてのう」
神託とはなんだったのか。
アマテラス様の必死な様子に戸惑う議員たちですが、当のリィンベルさんは孫を見守る婆のような優しい目をしています。流石は年の功です。
「何か急がなければならない理由が?」
「いや。どうもアマテラス様自身は話をつけてから間をおいて召喚するつもりだったらしいのじゃが、本人が『早く日本に連れていけ』と駄々をこねているらしくての」
――なんでやねん。
マカミさんやオグニルさんの件と言い、いつから日本は異世界人から人気の観光スポットになってしまったのでしょうか。
「まあ協調性があるようでいて、自己中心的で頑固な奴らじゃからのう。さっさと……あ、もう来るようじゃな」
――なんでだよ!?
結局来るなら先ほどのお伺いは何だったのか。若手議員を初めとしたつっこみ議員連盟からつっこみが入ります。
しかしそんな議員たちを置き去りにするように、国会のど真ん中にボフンと申し訳程度の煙が発生します。
「ふむ。ここが日ノ本の国ですか」
そして現れたのは金髪の若い女性。
その体は細身ながらも均整が取れており、人間離れした容姿と合わさり美の化身とも言えるような姿です。
しかしそんな美しさよりも、もっと目を引き付ける要素が女性にはありました。
長い金髪の間から見える耳。それはどっかの誰かさんみたいにアンテナのようにとんがっていました。
――エルフキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
某掲示板やtwitterが落ちかけたけど落ちませんでした。
幾度もの聖戦を経てサーバーも日々強化されているのです。
「ようこそ日本へ。私は内閣総理大臣を務めております、安達と申します」
未だ戸惑う議員たちを尻目に挨拶を敢行する安定の総理。
実は久しぶりの異世界人でちょっとわくわくしてるのは内緒です。
「丁寧な対応、痛み入る。私はロートゥスの森に住むエルフの一族で、名をイネルティアと申します」
「イネルティアさん。召喚返しに応じたそうですが、身近に日本人はいらっしゃいましたか?」
「居ました。というよりも、その事について詫びるために私はこの地に来たのです」
――またかよ。
イネルティアさんの言葉を聞いて、議員たちは大体察しました。
「話せば長くなるのですが。私はエルフたちの中でも急進派に属しており、他のエルフを嫌ってすらいました」
「それはまた何故」
「怠惰だからです」
安達くんの問いに即答するイネルティアさん。その言葉に安達くんは要領を得ず首を傾げます。
「大体エルフという種族は暢気すぎるのです。何か起これば『明日やればいい』と。明日やると言って結局一年経つのがデフォルトではないですか!? その上『問題起きなかったしこのままで良いだろう』と。現状維持を言い訳に停滞することほど愚かなことはないわ!?」
たまっていたストレスが爆発したらしく、最後の方は叫んじゃってるイネルティアさん。般若のような顔ですが、なまじ美形な分余計に怖いです。
どうやらイネルティアさんは意識高い系エルフだったようです。
もっと気を抜いて生きればいいのになあと、日本に来てから気を抜きまくってるグライオスさんが生暖かい目で見ています。
「……失礼。つい興奮して声を荒げてしまいました」
「お気になさらず。気苦労も多かったのでしょう」
「アダチは優しいですね。……イサオもそういう人でした」
少し落ち着いたのか、一つ吐息をもらすとイネルティアさんは語り始めます。
「エルフの在り方に苛立ちを覚えていた私は、似たような考えを持つ者たちと共に、どうすればエルフの一族がより発展できるかと考えていました。そして参考にしようと思ったのが人間です」
「人間を?」
「はい。確かに人間はエルフに比べれば脆弱で寿命も短いですが、時にその短い生涯で我々エルフすらも越える力や技術を得る者も現れます。そんな人間を見習おうと思ったのですが、我々は森の奥深くに住んでおり、村の掟により外に出ることも気軽にはできません。
そこで我々は、私たちに教授できる程の深い知識をもった人間を召喚しようと決意したのです」
この辺りで議員たちも大体オチが読めました。
異世界間の壁が薄すぎるのではないかと文句を言いたくなります。
「そして召喚されたのが、何故か異世界のご老人でした。本人は老い先短いのに貴重な体験ができると笑っていましたし、我々の図々しい願いも聞き入れてくれましたが、同意も得ずに帰る事もできない異郷に呼び寄せてしまったのは事実。せいぜい隣国から召喚されるだろうと甘く見ていた我々の落ち度です。
今回の逆召喚の話を聞き、最初私たちはイサオを日本に返してくれないかとアマテラス殿に願うつもりでした。しかし当のイサオが『途中で帰るなんて無責任なことはできません』と拒否したため、詫びも兼ねて私が逆召喚に応じたのです」
イサオさんかっけえ。
異世界に召喚されたお爺ちゃん先生に、全国から尊敬の念が送られました。
「事故同然とはいえ、貴国の民を拉致したのは紛れもない事実。いかなる裁きも……」
「まあ落ち着け小娘」
「誰が小娘だ! 私はとうに百を越えて……!?」
小娘扱いされて激昂するイネルティアさんでしたが、振り返ってリィンベルさんの姿を見た瞬間、雷に打たれたように硬直してしまいました。
「は、ハイエルフ? いや、このオーラはまさか!?」
どうやらリィンベルさんが王族エルフだということに気付いたようです。
日本では知られていませんし実は本人も忘れてたりするのですが、王族エルフというのはエルフの中でもすっごいエルフなのです。
エルフとダークエルフの違いがあるとはいえ、反射的に膝をついてしまったイネルティアさんの反応も当然です。
「失礼しました。高貴なる黒いお方」
「うっわ、久しぶりじゃのう、そういう反応。まあそう堅くならずに、これでも食え」
「こ、これは?」
「同胞が来ると聞き、急いで温めてきた」
リィンベルさんが差し出したのは、シーナさんお手製のお弁当でした。
メインは安定の焼きおにぎり。温めたことによりその威力は倍率ドンです。
「これがこの国の」
「そうじゃ。多くを語らずとも、食は嘘をつかぬ。さあ食え」
リィンベルさんに促され、ゆっくりと焼きおにぎりを口に運ぶイネルティアさん。
口に入れた瞬間カッと目を見開き、もぐもぐと咀嚼していきます。
「……」
そしてごくりと飲み込むと、無言で立ち上がり安達くんの方へと向き直ります。
「私はこの国に忠誠を誓います」
「うむ」
――なんでだよ!?
なんか宣誓しちゃったイネルティアさんと頷くリィンベルさん。そしてつっこむ若手議員たち。
今日も日本は平和です。
独断と偏見による外国人が日本を離れたくない理由ランキング
3位:テクノロジーとか色々便利
2位:安全
1位:飯が美味い(重要)
今日も日本は平和です(二回目)




