見た目は地味
「微妙に時代遅れといえば、先輩って弓は使わないんですか?」
「うーん、弓は趣味じゃないわねえ」
メルディア王国の王宮の食堂にて。
毎年恒例春のドラゴン討伐も終わり報酬ついでのタダ飯かっくらいながら言うカオルさんと、弓は趣味じゃないというオネエ。
オネエなら石投げた方が早いからね。仕方ないね。
「というか何でいきなり弓なのよ」
「いや俺も詳しくはないですけど、弓って三人張りとか五人張りとかいう、何人がかりで弦をはらなきゃいけないほど強いみたいな基準あるんですよね」
「あー武将とかの逸話で、他の人間にはひけないくらいの強弓を使いこなしてたなんて話もあるわね」
「先輩なら百人張りくらいでも余裕でひけるんじゃないかと」
「私が引く前に本体がぶち折れるわよそんなもん」
しかし異世界の不思議物質や魔術を使えばあるいは……?
それでも聖剣の封印すら強引にぶち破るオネエが本気でひいたらぶち折れそう。
「それに弓って結構難しいのよ。素人が射っても的に当たるどころか前にすら飛ばなかったりするの。私には向いてなかったのよ」
「え? その口ぶりだと練習したことあるんですか。何でそのまま身につくまでやらなかったんですか」
「力みすぎて次々と弓を破壊したからね」
「あー」
オネエ気を付けないと走ってる勢いだけで壁ぶち抜いたりする人間兵器だからね。
力加減を間違えたら全てを破壊する、人と共には暮らせない悲しいモンスターだね。
なおこの作品はコメディーなので人は死にません。多分。
「やっぱり石投げる方が早いわよ。アンタなら槍投げとかいいんじゃない。使い捨て前提の安いやつ大量に持って行って」
「あー接近しなくてもドラゴン倒せるならいいかも」
投擲用の槍を大量に持ち歩くのに違和感を持たない時点でカオルさんもヤベェ。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「でも実際投石って割と最近まで実戦で使われてたって聞いたけど」
「最近と言うのがどの程度かにもよりますが。日本ならば戦国時代には投石による負傷者が過去数百年の戦に比べてむしろ増えたという研究がありますし、江戸時代に入ってからも島原の乱で投石による負傷者が居たことが記録されていますね」
「あー流石に戦車やら飛行機が出てくるころには石投げてないか」
「石は投げていませんが、投石機自体は第一次大戦までは石の代わりに手りゅう弾を飛ばすのに使われていたそうですね」
「何それ恐い」
ちなみに日本では石を投げる技術の他、祭事などの行事で行われる石投げも含めて印地と呼ばれていたりします。
石を投げる際には両端に紐をつけた投石用の布などが用いられた他、手ぬぐいなどでも代用できたため、町の喧嘩でも石が高速で飛び交うことがあったそうです。
殺伐!
「いや喧嘩で石はダメでしょ。死ぬじゃん」
「まあ実際危険なので戦場以外での投石は禁止されたりもしたそうですね。江戸時代にも京都で子供たちが川を挟んで石を投げ合っていたところに、祭り帰りの人間たちまで参加して大騒ぎになり禁止令がでたとか」
「子供止めずに何やってんだ大人」
そこはもう現代人とは価値観が違うからとしか。
……禁止令出てるから当時でも危険行為だな?
「もしかして日本人がおとなしいのはここ数十年だけなのでは?」
「ここ数十年でも昭和の頃は割とまだはっちゃけてましたよ」
治安的な意味でも昭和以降は徐々に平和になり続けてるからね。
今日も高天原は平和です。




