暑いから飲み物を買いに行きたいけど暑いから外に出たくない
「あ、王子様。うなぎの輸入量将来的に減らせるかもしれないですけど、減らした方がいいですか?」
「ふらりと立ち寄った食堂でいきなり仕事の話ふらないでくれないかな」
メルディア王国にて。
相変わらず城内フリーパスなので食堂で海鮮ドリア食ってたミィナさんと、いつも通り休憩ついでにおやつのプリンを食べに来たら仕事の話をされて困惑するハインツ王子。
なんで食堂にプリン食いに来てんだこの王子(今更
「あーもしかしてアレかい? 日本でうなぎの完全養殖の目途がたったとかいう」
「おー流石耳が早い。まあまだ本当に目途がたった程度で、コストの問題とか考えるとかなり先の話になると思いますけど」
「うーんまあ噂程度なら流しておいてくれないかな。将来的に先細るという話が流れたら、必死こいて密漁してる連中も大人しくなるかもしれないし」
「そんな先が見通せる人間なら目先の金銭のために密漁はしないと思いますよ」
なおメルディア国内でうなぎの密漁をしていると、オネエたち騎士団+カオルさんが出動してきます。
ドラゴン駆除のベテラン集団けしかけるとか容赦ねえな。
「まあ『なんでとれるだけとったらダメなんだ!?』と本業の漁師たちの中にすら密漁してるのいるからねえ。誰かさんのせいで」
「いや私もまさかあそこまで後先考えずに密漁しまくる人が出てくるとは。お詫びに街道の整備費とか出したじゃないですか」
「それ結果的に輸送路の整備だから君の商会も得してるよね?」
「てへ☆」
「恐」
反論できないのでおどけてみるミィナさんと、本性知ってるので何の真似だとドン引くハインツ王子。
逆にここで建前全開でごまかさないあたり、割とミィナさんに信頼されているのですが、それを知ったら多分盛大に嫌そうな顔をします。
「酷い! こんなに可愛い女の子のお茶目が恐いなんて!」
「私は可愛い系より美人系が好みだから」
「グレイスさんは美人というよりかっこいい系じゃないですか?」
「グレイスの話はしてないんだけどなあ!」
むしろグレイス以外の誰の話なんだよと思う食堂に居合わせた人々。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「完全養殖うなぎは順調みたいだね」
「ああ先月試食会をしていましたね。完全養殖に成功したのは2010年ですし、まだPRの側面が強いと思いますが」
「え? そんな前に成功してたの?」
「前にも言いましたが、今はいかにコストを下げるかという段階ですからね。現状だと天然物の三倍以上の値段になるそうですし」
「それは高い」
そもそもこのまま技術が進んだとしても、天然由来のものより安くするのはしばらくは不可能と見積もりがされています。
うなぎを絶滅させるよりはマシだからね。仕方ないね。
「やっぱ研究って時間かかるんだね」
「そもそも完全養殖の研究が始まったのが1960年代で、人工ふ化の成功が1973年ですからね。一つ一つのステップをクリアするだけでも大変でしょう」
「半世紀以上かけてたの完全養殖」
それだけ長い期間をかけて成功に繋げた人々に脱帽。
まあ作者はうなぎ(略
「そんだけうなぎの絶滅に危機感もってたんだね日本人」
「まあ絶滅危惧種になっても相変わらず食ってますし、養殖の半分以上が稚魚を違法に獲得したものではないかという話もあるので、そんな殊勝な人ばかりではなさそうですが」
「あれ? もしかしてコレつっこんだら闇が深い話になる?」
今年も何人もうなぎの密漁で捕まってるからね。メルディア王国の騒動、実は全然他人事じゃないね。
今日も高天原は平和です。