もちろん干しシイタケにも含まれる
「なんか君のお父さんに『うま味』について力説されたんだけど」
「何をどうして父上とそんな会話に??」
フィッツガルドの皇帝の執務室にて。
食糧輸出の話の続きかと思ったら、父親について愚痴られて思わず聞き返すローマンさん。
デンケンさんなら世間話と見せかけて何か重要な思惑が隠されてそうですが、多分今回は本当にただの趣味話です。
「というか結局うま味ってなんだい?」
「私に聞かれても。それこそ父上に説明されたのでは」
「いや、完全にこちらに説明する気がない調子で一気にまくしたてていったよあの親父」
「何で?」
あいつ料理の話になると早口になるよな。
「グルタミンとかグアニルとか名前は聞いたことありますが。甘味や塩味と同じ基本味の一つで、日本だと昆布などに含まれていて煮込むことで出汁として抽出するらしいですが」
「日本人独自の味覚ではなく?」
「ちゃんと味覚として舌と脳が反応するのは研究で分かってるそうですよ。と言っても、日本人でもちゃんと分かってなさそうな人が多かったですが」
理屈は分かんないけど出汁のない味噌汁とか万死に値するし……。
ちなみにうま味は日本人研究者が昆布から発見しましたが、ブイヨンやコンソメにもうま味は凝縮されているので「うま味とかよく分かんないけど経験則として美味しいし……」というのは世界共通だと思われます。
「基本味とされてる割に甘みや辛みとかより分かり辛すぎないかいそれ?」
「そもそも辛みは基本味ではないそうですよ」
「何で?」
辛みは味覚じゃなくて痛みだからね。仕方ないね。
つまり辛いもの好きはマゾ。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「うま味とか説明されてもよく分からなくない?」
「まあ実在が証明されたのも2000年のことですからね」
「そんな最近なの」
アマテラス様は最近とか言ってますが、もう2000年代に入ってから24年経つという恐怖。
そういや1999年の恐怖の大王って、別に世界や人類が滅亡するとか書かれてないのに、なんか日本でだけ滅びるという説が広がってたそうですね。
「うま味成分自体が発見されたのは1908年ですが、欧米の科学者の多くはうま味というものは他の味覚との調和で成り立つものだとして、存在に懐疑的だったそうですね」
「証明まで百年近くかかってるじゃん」
ちなみに証明自体はされましたが、今もなおうま味について懐疑的な外国人は存在するし、一部ではうま味調味料が健康に悪いとして嫌われています。
大量に摂取したせいで健康被害を出したとされる事件もありましたが、その後の検証で否定されています。
「でも何で欧米の科学者がこぞって否定してたの?」
「ブイヨンなどの例外はありますが、ヨーロッパなどの硬水では出汁が上手くとれないからだとされてますね。うま味成分は複数のものを合わせると相乗効果でよりおいしくなるとされていますが、出汁としてうま味が抽出し辛い結果、食材単品のうま味を利用することになりうま味が重要視されにくかったと」
「あーパンの時も聞いたけど、水って食文化にそんなに影響するんだねえ」
ちなみにうま味とはあまり関係ありませんが、最近はアメリカで昆布が「植物性な上に栄養価が高い」と注目され始めているそうです
「あれ? 海藻って日本人しか消化できないって聞いたけど」
「ああ、それほぼデマですよ。元になった研究で消化できるかどうか調べられたのは海藻ではなく生海苔で、しかも火を通せば普通に誰でも消化できますし」
「出たな万能火」
「あと確かに日本人以外から生海苔を消化する酵素は発見されませんでしたが。十数人しか調査してませんし、日本人の半数も消化酵素を持っていなかったので、日本人の中にも生海苔が消化できない人はいます」
「マジかよ」
果たしてアマテラス様は生海苔を消化できるのか。
今日も高天原は平和です。