ポテチが歯茎に刺さった
「花見に行くぞ!」
「ええ……」
朝っぱらからでかい体を折り曲げるようにして重箱に自分の好きなおかず(からあげ、とんかつ、ハンバーグ等)を詰め込んでるグライオスさんと、その宣言にめっちゃ嫌そうな顔をするカガトくん。
カガトくんステイホーム推奨下でストレスをためる人が多いと聞いて「……なんで?」と真顔で言っちゃうくらいのインドア派だからね。
仕方ないね。
「なんだその嫌そうな顔は」
「嫌です」
「口に出して言いおったな」
改めて意思表示をするカガト君と、呆れながら他の人間用の食べ物を別の重箱につめてるリィンベルさん。
中身が茶色い重箱は、多分酒飲みたちだけで食い尽くします。
「まあ繊細な年ごろじゃからのう。事前に予定もたてずにいきなりじゃし、無理して来なくてもよかろう」
「えーみんな来ないとわしが嫌だ!」
「ガキか貴様」
こっちはこっちでいい歳こいて堂々と嫌だとごねるグライオスさん。
元皇帝様だからね。仕方ないね。
「おや? カガトくんは来ないのですか?」
「え、はい。できれ……」
できれば行きたくないと言いかけて、振り返ったらそこに居たのが家主の安達くんでフリーズするカガトくん。
そりゃ自分ちだからね。休日なら居てもおかしくないよね。
総理大臣のスケジュールってマジで分刻みで「ちゃんと休む時間取れてるの?」となるけどな!
「……行きます」
「そうですか」
そして解凍するなり前言を撤回するカガト君と、ちょっとほっとする安達くん。
総理大臣直々に「花見行こうぜ」と言われて断れる人そういないからね。仕方ないね。
「何故アダチの言うことは素直に聞くのだ?」
「おぬしと違って自国の現役の権力者だからじゃな」
「そして何故アダチはちょっとがっかりしておるのだ?」
「まだ同居人として馴染んでおらず権力者として見られておるからじゃな」
この家めんどくせぇおっさんしか居ないな。
今日も日本は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「アメリカに新しく桜が寄贈されるらしいね」
「ああ。なんでも防潮堤を作るために桜を撤去する必要があり、その代わりとして贈られるそうですね」
「あー災害対策じゃ仕方ないよね」
追加情報として桜が撤去される理由を説明するツクヨミ様と、仕方ないと納得するアマテラス様。
ちなみにアメリカの桜といえば東京の荒川堤のものを送り植樹されたワシントンD.C.の桜が有名ですが、荒川堤の桜は第二次世界大戦や公害によって一度消滅しており、アメリカに定着していた桜を送ってもらい植えなおした里帰り桜だったりします。
他にも洪水の被害にあった桜を植えかえるためにワシントンの桜から挿し木をとった記録があったりと、案外里帰りした桜は多いのかもしれません。
「でもアメリカ人の話を見てると、桜の開花が結構不安定みたいだけど、逆になんで日本って開花予想とかあんなぴったりしてんの?」
「気候の違いもありますが、そもそも開花予想は基本的にソメイヨシノを基準にしてますからね。他の種は結構開花時期はずれたりしていますし」
「え? なんでソメイヨシノはそんなぴったり咲くのが分かるの?」
「ソメイヨシノは全て接ぎ木で増やされたクローンのようなものですから。遺伝子的には同一個体なので、環境が同じなら大体全部同じ時期に一斉に咲くんですよ」
「そうなの!?」
ソメイヨシノは大体同時に咲くと聞いて驚くアマテラス様。
なおソメイヨシノは種をつけないので、接ぎ木でしか増やせなかったりします。
他の種類の桜との交配で種をつけることはありますが、その場合その種はソメイヨシノではなくなります。
「へー。クローンみたいなものだってのは聞いたことあったけど、そのおかげで同時に咲くのは知らなかった」
「まあ逆に言えば同時期に植えたソメイヨシノが同時期に一斉に枯れる可能性も高いですが」
「何それ植え替え大変そう」
なおソメイヨシノの寿命は60年ほどとされ、全国に植えられまくったソメイヨシノもそろそろ寿命になるので、全国で一斉に枯れるのではと危惧されてたりします。
というか地域によってはすでに他の種類へ植え替えが進んでいるそうです。
「意外に寿命短いね」
「まあ桜の中ではあまり長くないとされていますね」
ちなみに現在最高樹齢の桜は山梨県北杜市にある山高神代桜で、樹齢は2000年とされています。
「中々やるじゃん」
「どこから目線ですか」
神様目線だからね。仕方ないね。
今日も高天原は平和です。