いきなり暑い
「騙された」
「騙してはないわよ。人聞きの悪い」
メルディア王国というかドワーフ王国(地下)の直上にある竜王山にて。
騎士団のアグレッサー(人)を任せられて来たのに、当然のような流れで春の竜祭りに参加させられてやさぐれているカオルさんと、そんなすぐに効果あるわけないだろうと正論ぶちかますオネエ。
なおカオルさんによる抜き打ち防衛体制チェックは、発見されるたびに発見者を物理で黙らせてうまくいっているように見えましたが、五回目あたりで黙らせる前に他の騎士が応援を呼んでしまいただの乱闘になりました。
うまくいくも何も最初から筋肉式スニーキングミッションじゃないかいい加減にしろ。
「というか騎士団普通に強いじゃないですか。結構攻撃すいすい避けられましたよ」
「そりゃあ私と団長が鍛えてるんだもの」
「あー」
つまり騎士団の人間たちは、オネエや団長のようなこっちの攻撃は通じないのに一方的に襲ってくるモンスターの相手に慣れているのです。
可哀そうだね。
「つまり足りないのは攻撃力だと」
「やっぱり地道に筋トレかしら」
「貴方たちは人間の可能性を信じすぎているのでもっと現実的な訓練をしてくれ」
やはり根本的にはオネエと同類なカオルさんと、普通の人間は筋トレしてもドラゴン倒せるようにはならねえとつっこむグレイス。
いやでも億分の一で某ハゲみたいなバグが生まれるかもしれないし。
今日も異世界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「オックスフォード英語辞典とかいうのに、日本語からの借用語が幾つか登録されたらしいんだけど、とんこつ(たばこ入れ)って何?」
「とんこつはとんこつですね」
見慣れてるけど見慣れない日本語に首を傾げる日本の主神と、普段からは考えられない情報量0の発言をするツクヨミ様。
なおラーメンとかスープのとんこつは、それとは別にちゃんととんこつ(豚骨)として登録されています。
じゃあとんこつってなんだよ。
「江戸時代から明治時代頃に使われていた、腰などに下げるたばこ入れですね。たばこといっても刻みたばこのことなので、煙管とセットになっていることが多かったそうですが」
「なんでそんなもんがイギリスの辞典に?」
「さあ?」
「さあて!?」
悲報。ツクヨミ様が解説を諦める。
いや、この件に関してはマジでわがんね。
「そもそも日本語としてのとんこつの語源も不明ですからね」
「マジでなんでなの。いや他にも和紙テープとか火鉢とか何でそんなものがってのがあるけど」
ちなみに食べ物関連では豚骨の他に焼肉とかお好み焼きとかカツなどが入っています。
「え? カツって英語じゃないの?」
「カツレツはフランスのコートレットが元とされていますが、英語ではカットレットですね。こういった再借用されたものはブーメランワードと呼ばれるそうです」
「あー一応自分たちが元だという認識はあるんだ」
なお以前イギリスでは日本式のカレーは全てカツカレーと呼ばれ、カツが入ってなくてもカツカレーだと説明しましたが、今回カツとカツカレーが別々に借用語として採用されています。
そのせいで「あれ? もしかしてカツカレーのカツってカツのことだった?」と真実に到達し始めたイギリス人が増えた模様。
「今更気づかれても、イギリスだと表面に思いっきり『KATSU』と書かれちゃってるヌードルなカップラーメンはどうするの」
「単に書くのをやめるだけでは?」
逆にカップラーメンにカツを入れてしまえば……。
今日も高天原は平和です。