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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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きょうふの味噌汁

 ――なんですってーーーー!?


 メルディア王国の王宮にて。

 最近名物騎士として国全体に周知されているユウキ・コクショウことオネエの絶叫が青空に響き渡ります。


「また副団長が叫んでるな。団長が何かやらかしたか?」

「毎日副団長とグレイスのどっちかが叫んでるよな。団長のせいで」


 そしてそんなオネエの雄たけびを聞きつつも、暢気に巡回をする二人の騎士たち。

 騒ぎを取り締まる側のはずなのに騒ぎを起こしまくる団長のせいで、もはやちょっとした騒ぎでは動じなくなっています。

 頼もしい反面油断がありそうで城の警備に不安が残ります。


「しかし最近の団長と副団長えらく仲がいいよな」

「副団長も団長の扱いに慣れてきたんじゃないか?」

「そうじゃなくて、ほら、男女のアレ的な」

「……いや無いだろ。副団長は女に興味無いし。それにもし副団長の嗜好が普通でも、団長は無いって」

「やっぱそうだよなあ。仮に副団長がまともでもあんな男女は無いよなあ」

「そうかぁ。私みたいな男女は無いかぁ」

『……』


 不意に割り込んできた女性の声。

 背後から聞こえてきたそれに、二人の騎士が錆びついた人形のように動かなくなります。


「おい逃げ――」

「フンっ!」

「ぐおらばっ!?」


 即座に状況を理解し逃げようとする騎士たちでしたが、その足が地を蹴るよりも早く頭を掴まれ、アメリカンクラッカーのようにお互いの頭を打ち付けられてしまいます。


「いて……いてえっ! うわっ何か頭蓋骨が砕けてそうで確かめたくねえ!」

「ほ、星が……目の前で綺麗なお星さまが」

「大げさな。人間そんくらいでどうにかならんだろう」


 騎士二人の悶絶する姿を見て、いつの間にか現れた団長が呆れたように言います。

 確かに頭蓋骨は人体の中でも硬い部分ですが、強度的にはかぼちゃくらいなので勢いをつければ普通に砕けます。

 オネエとタメをはる団長の力で打ち付ければ言わずもがな。二人の騎士に後遺症が残らないか心配です。


「勘弁してくださいよ団長ー。俺たちは団長や副団長と違って人間卒業してないんですよ」

「私も卒業した覚えはねえよ。それと今回ユキが叫んでるのは私のせいじゃないぞ。多分さっき来たガルディアのお姫様のせいだ」

「ああ……あの副団長と同郷だとかいう」


 キレ系王妃ことアサヒさんですが、オネエと同じ日本人だということでメルディア王国でも有名になっています。

 主に流石あのオネエの同郷だと言う意味で。


「この前『裏切ったな! 私の気持ちを裏切ったな!』と叫びながら副団長を殴り飛ばしてましたね」

「マジかよ。俺グレイスが作った隙に乗じて副団長に一撃入れたことあるけど、大胸筋に剣弾かれたぞ」

「流石副団長の同郷だな」

「そうだな。日本人というのは凄いんだな」


 オネエと王妃様のせいで異世界に広がる風評被害。

 日本政府の最終兵器「遺憾の意」の発動が待たれます。



 味噌。

 その起源は中国とも日本独自のものとも言われていますが、いずれにせよ今日の日本には欠かせない食材となっており、朝は味噌汁が無いと始まらないという人も多いはずです。

 その歴史は一番古いもので千数百年はあり、初期は高級食材として貴族たちの間で出回りとても庶民の手に届くものではありませんでしたが、次第に味噌の作り方が庶民の間に広がり、長い時間をかけて味噌汁が国民食となっていったのです。


 因みに長期保存がきくことを利用し、芋の茎を味噌で煮詰めた芋がら縄というものを兵士たちが戦闘糧食として携行していたそうです。

 持ち運びがしやすく栄養も満点。自衛隊は一刻も早く芋がら縄をレーションに加えるべきだと思います。

 というか何でレーションに味噌が無いねん!?


「味噌が……見つかったですって?」


 そしてそんな味噌をアサヒさんが見つけてきたと聞き、感動に震えるオネエ。

 相変わらず王家に嫁入りしたのにアサヒさんのフットワークが軽すぎますが、そのフットワークの軽さ故に味噌の情報が手に入ったので何とも言えません。


「ああ。ドワーフ王国に日本人の料理人が居てな。その人が懇意にしてる商人を経由して何とか手に入ったんだが、いや流石に距離がありすぎて普通の食材なら腐ってたな」


 因みに味噌が作られているホムラ国は、ドワーフ王国より北のフィッツガルドのさらに北東の隅っこにあるため、いくら味噌が長期保存できるとはいえ結構ギリギリな距離だったりします。

 というかいくら味噌が長持ちしても常温なら二、三ヶ月が限界です。

 皆さんも横着せずに味噌はちゃんと冷蔵庫で保管しましょう。


「日本人の料理人ですって……ま、まさかアサヒちゃん? そこで……」

「ああ。流石に材料が無いらしくて味噌汁とごはんだけだったけどな。いや、久しぶりに日本食を食ったせいかしばらく体に力が漲ったな」

「酷いわ! どうして私を連れてってくれないの!?」


 満足そうに頷く王妃様と涙ながらに訴えるオネエ。

 一応護衛として控えていたグレイスは「その前に一人で他国にホイホイ行くんじゃねえ」とつっこみたくなりましたが、オネエと違って同郷の友人という免罪符も無いので王妃様相手につっこみはできません。

 オネエと王妃様がファイナルフュージョンしてしまってからのつっこみ所満載な日常に、グレイスの胃がストレスでマッハです。


「いや流石に悪いとは思ってる。だからこうして味噌のおすそ分けにだな……」

「本当!? 流石ねアサヒちゃん! 愛してる!」

「あっはっは! もっと誉め讃えろ! 私を敬え!」


 他国の王妃相手に愛を叫びながら投げキッスするオネエと、味噌をかかげて高らかに笑う王妃様。

 つっこみどころ満載な光景ですが、残念ながらこの場にロイヤルツッコミを入れられる人材はいません。


 因みに同時刻に何かを感じ取ったガルディア王が「おのれコクショウ!」と叫んで執務室を脱走しようとしましたが「仕事してください」と護衛の騎士に取り押さえられました。

 暴走したら主相手でも容赦しない。ガルディアの騎士も中々優秀です。


「よし! 味噌が手に入ったとなれば、久方ぶりに私も腕をふるうしかないわね!」

「おう! 私も手伝うぞ!」


 そしてムキムキマッチョな体にフリル満載なエプロンを纏うオネエと、それに同調しドレスの上から同じエプロンを纏う王妃様。


 ――おい。頼むから止めてくれ。


 他の騎士たちが目でグレイスに訴えましたが、グレイスは虚ろな笑みを浮かべてただ首を横に振るだけでした。


 今日も異世界は平和です。


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