チーズも意外に合う
「なんでこのクソ寒いのに訓練しなきゃいけないんっすか!?」
「クソ寒いから訓練にいいんでしょうが情けない!」
「いやそれはそれとして副団長の格好はおかしいですよ」
メルディア王国の王宮の隅っこにある練兵場にて。
槍を縋るように持ちながら震えてている軽そうな騎士と、その軟弱な姿に呆れて叱責するオネエ。
そしてそんなオネエに「なんでこのクソ寒いのに上半身裸なんだよ」とつっこむ真面目そうな騎士。
オネエはちょっとうっかり力を入れすぎると着ているものが弾け飛ぶからね。仕方ないね。
「確かにこの時期は日本でも大寒と呼ばれていて、一年で一番寒い時期だとされているわ」
「だったらさあ……」
「だからこそ! 寒ければ寒いほど精神が鍛えられ技の上達に繋がるとも言われているのよ!」
「日本人頭おかしい」
真面目過ぎてなんか勝手に自分たちを追い込み始める民族だからね。
でもいくら追い込んでもオネエみたいになるのは不可能だと思います。
「というか副団長はもう体がおかしいっすよ。何で全身から湯気出てんですか。馬ですか」
「確かに私はあそこはう」
「アウトー! それ以上はアウトー!」
何を言おうとしたのか察して止める真面目そうな騎士。
危うくオネエの下ネタでこの作品が公開制限を受けるところでした。
そんなもんで公開制限されるならとっくの昔にされてるって?
……そうだね!
「そろそろうちの団員から、他にも竜殺し並みの人間が出るんじゃないかと団長もわくわくしているのよ」
「それ俺たちがその候補だとか言い出さないですよね」
「そうじゃなきゃ二人だけ呼び出して追加で訓練するわけないでしょうが。さあ今日こそ私に傷をつけてみせなさい!」
『無理だ!?』
言ってることが最早ラスボスなオネエと、無理難題を前に悲鳴をあげる騎士たち。
一応竜殺しの一人なカオルさんすらオネエの筋肉に槍弾かれるからね。団長以外にはほぼ不可能だね。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「やはりエアコンよりストーブ」
「ストーブの上で色々焼きたいだけでしょうが」
ストーブの前で日本酒片手にお餅が焼けるのを「まだかなまだかな」と待っているアマテラス様と、つっこみながらも餅を入れるためのお茶漬けを準備するツクヨミ様。
お雑煮を作るのが面倒な時は、お茶漬けの素にお餅つっこんでも美味しいよ!
「そういえば大寒に酒とか味噌とか仕込むの寒仕込みって言うらしいけど、なんか良いことあるの?」
「縁起が良いというのもありますが、発酵食品を仕込む場合は気温が低いと雑菌などが少ないというのもありますね。同じ理由でこの時期に汲んだ水を寒の水と言い、保存性がよく仕込みに適しているとされています」
「あー寒いとそういう恩恵もあるのかあ」
ちなみにオネエが言っていた大寒の稽古は寒稽古等と言いますが、医学的には負担が大きく本人の健康やストレスに配慮して無暗に行うべきではないともされています。
やっぱ冬はこたつでみかん食ってるのが一番だな!
「他にもこの時期の卵は栄養価が高く質の高いものが多いとされていますね」
「……ストーブで玉子焼き作れるかな?」
「その網でどうやって卵を焼くつもりですか」
アマテラス様玉子焼き用のフライパン使っても、うまく焼けずに途中で炒り卵に変更してそう。
「なにおう! なら見せてやろうじゃないの台所に来い!」
「火傷はしないでくださいよ」
もうちょっと酔ってる勢いで台所に向かうアマテラス様と、既に玉子焼きの出来には興味がなく他の心配をしているツクヨミ様。
なお結果。
今日も高天原は平和です。