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魔王様とダブル勇者

 ――うわああああっ!?


 魔王様の居られる魔王城。

 魔王様のトラップ好きが限界突破し用事があるときは裏門から入るのが常識になっている城に、今日も自称勇者たちの元気な悲鳴が木霊します。


「魔王様。勇者たちが粉まみれになりながらハンマーに殴られて水平飛行しお堀に墜落しました」

「じゃあそのままお堀のトラップ発動させて下流まで流しといて」

「了解。ポチッとな」


 魔王様の命令を受けて、監視役のスケルトンさんが罠を起動させます。


 ――ぎゃああああっ!?


 するとお堀の一部が近くの川に繋がり、激流に流されていく自称勇者たち。

 まるで流しそうめんの麺のようです。


「魔王様のトラップは凄いですね。ボクの出番が無いです」


 そしてそんな様子を見てしょんぼりするシロウサギ。

 落ち込んでいるのは魔王様の役に立てないからです。決して勇者たちを杵でフルボッコしたいからではありません。


「ああ、大丈夫やで兎さん。兎さんはこの魔王城の最後の守りやし、何よりそばに居てくれるだけで私の士気が鰻上りやから」


 そういって膝に乗せたシロウサギをかき撫でまくる魔王様。

 シロウサギがちょっと迷惑そうです。動物はあまり撫でられまくると逆にストレスがたまったりするので、いくら可愛くても撫で倒すのはやめましょう。


「魔王様! また勇者っぽいやつらが侵入してきました」

「またかい。まあええわ。正面から来たのなら我が魔王城の面白トラップを骨の髄まで味合わせてやるわ!」


 普通魔王城で味わうのは恐怖トラップとか凶悪な魔物なはずなのですが、肝心の魔王様がただの愉快な姉さんなのでとっくの昔に撤去されました。

 最近ではそのトラップに勇者たちがひっかかる様子を、近隣の魔族や人間たちが仲良く見学に来るほどです。

 ラブ&ピースですね。


「まずはホールのトラップ。私でも把握できないランダム配置されたステルスバナナ! さあ、ぐにょっとした微妙な感触を味わいながら転ぶがいい!」


 バナナの皮で転ぶのは古典的なギャグですが、中身入りだと予想外Deathなレベルで滑るので注意しましょう。

 因みにバナナは後日スタッフ(サイクロプスさん)が美味しくいただきました。


「魔王様! 臭いでかぎつけられて全部食われてます!」

「なにぃ!? アンタら道で拾ったもんを食べたらアカンてオカンに言われんかったんかい!?」


 スケルトンさんの報告につっこみをいれる魔王様ですが、そのつっこみが微妙にズレています。

 魔王様はつっこみもこなしますが本質がボケなので仕方ありません。


「ま、まだや。次の通路は細い上に大量の振り子ハンマーが……」

「全部打ち返されてます」

「おいぃ!? せめて避けろや! こっちの意図に乗ってや!」


「まだ……まだや! 次はファンタジーな力をフル活用した動く床! さあ、足を踏み外して白い粉の海にダイブしてしまうんや!」

「飛び越して動く床無視されてます」

「何でや!? 人類は飛んだらいかんやろ! 常識的に考えて!」


 人類の常識を語る魔王様ですが、既に魔王様は人類からはみ出しているので説得力がありません。

 大丈夫。信じれば空だって飛べる気がする。


 その後も魔王様渾身のトラップは全て力技で突破され、とうとう玉座の間まで勇者っぽいのが迫ってきます。


「あれ? 冷静に考えたらヤバくない? あのトラップを鼻歌交じりに突破するびっくりどっきり人間と戦えと?」

「おまえも大概びっくりどっきり魔王だろう」


 魔王様の懸念に冷静に返す勇者様ホンモノ

 一応は同盟相手であり友達以上恋人未満(不本意)ではありますが、このポンコツ魔王は殺されても死なないタイプだと確信しているので欠片も心配していません。


「たのもー!」

「ぎゃあ!? 来たー!?」

「落ち着け」


 そしてついに玉座の間に辿り着いた勇者っぽいの。

 魔王様が淑女らしからぬ悲鳴をあげ大混乱です。


「杵アタック!」


 そして大混乱な魔王様の膝から飛び立ち、フライング杵アタックを敢行するシロウサギ。

 魔王様を守るためです。決して勇者を凹る機会が来たからはしゃいでいるわけではありません。


「何これ可愛い」

「きゃー!」


 しかし杵はさらっと回避され、捕獲されたシロウサギは勇者っぽいのに撫でくり回されてしまいます。

 そのあまりの手際にシロウサギも悲鳴をあげながらもうっとりです。


「あ、あれはゴッドハンド(動物)!」

「知っているのか魔王!?」


 ――説明しよう! ゴッドハンド(動物)とは動物のツボを撫でくり倒しヘブン状態にしてしまう、神の名を冠した悪魔の御手なのである!


「ま、まあそれは置いといて。……待っていたぞ勇者よ! よくぞここまで辿り着いた!」

「あ、こんにちは魔王さん」

「あ、はい。こんにちは。……って待てい! 何で普通に挨拶すんねん! こっちが魔王っぽい威厳出しとんやから乗ってや!」

「手遅れだからだろう」


 挨拶されたらとりあえず返す日本人な魔王様と、冷静にダメ出しする勇者様。

 意外に良いコンビです。もう結婚しちゃえよ。


「はじめまして。僕はフィッツガルド帝国に召喚された勇者の柚原マサトと言います」

「あ、日本人やったん。私は何か魔王として召喚された天海レイナです」


 やってきた勇者っぽいのは、フィッツガルドに召喚された召喚勇者なマサトくんでした。


 勇者として召喚された日本人と魔王として召喚された日本人。

 まるで悲劇の対決を予想させるような組み合わせですが、このお話がそんなシリアスな展開に突入するはずがありません。

 たまにシリアス書いたら「開くページ間違えたかと思った」って何だよ!?


「で、敵対するつもりはないみたいやけど、何しに来たん?」

「うん。僕の仲間のデュラハンさんに魔王さんのことを聞いてね」

「何あっさりくっちゃべっとんねんデュラハン!?」


 監視に出向いたはずの配下のまさかの裏切りに魔王様おこです。

 因みに当のデュラハンさんは、魔王城の入り口の時点で他の仲間と一緒に置いて行かれて真っ白に燃え尽きています。


「それで面白そうだから遊びに来た」

勇者ホンモノ! おたくの世界の勇者どうなってんねん!?」

「いや、こいつはどちらかというとおまえの世界の勇者だろう」


 勇者様に異世界の勇者事情を問い詰める魔王様ですが、相変わらず適切なつっこみをいれる勇者様にはかないません。


 その後マサトくんはミラーカさんの淹れた紅茶を堪能し、魔王様お手製のクッキーをお土産にもらって帰るのでした。

 入り口で待っていた仲間たち(神含む)に怒られたのは言うまでもありません。


 しばらくしてからのフィッツガルド帝国。


「こんにちは皇帝さーん」

「ああ、君か。相変わらず警備など知ったことかとばかりに唐突に現れるな」


 突然執務室に出現したマサトくんを呆れながら受け入れる皇帝(元皇子)

 色んな意味で破天荒な父親が居たせいで順応が早いようです。


「この前ね、魔王さんのところに遊びに行ってね」

「うん。もう初っ端からおかしいが私はつっこまないからな」

「うち(フィッツガルド)と国交と同盟結びたいって書簡貰った」

「あっはっは。グリム。ちょっと疲れたみたいだから私は寝てくる」

「現実逃避しないでください陛下」


 枕を持って寝室に引きこもろうとする皇帝と引き留める騎士。

 今日も異世界は平和です。


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