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アシダカグモさんは益虫です

 稲作。

 日本では紀元前には大陸から稲が伝来されており、その歴史は軽く二千年を越えるわけですが、実は日本はとっても稲を育てるのが大変な国でもあります。

 環境的には問題ありません。問題なのは、日本の高温多湿な状態では害虫が大量発生するという事です。


 そもそも日本は虫が多いことで知られており、外国人は日本では家の中に虫が入ってくることもあると聞いて「冗談じゃねえ!」と恐れ戦いたりするそうです。

 逆に日本人は虫に慣れ親しんでいるためか、虫の鳴き声を聞いて季節や風流を感じたりするわけですが、これまた多くの外国人には分からない感覚だったりします。


 だからと言って蛍の英語名がFireFly(火蠅)なのはあんまりだと思います。

 風流もへったくれもありません。


「害虫対策が大変なのは分かったんですけど、具体的にはどうすれば良いんですか? 農薬なんて無いし、あっても異世界でそんなもの振り撒くわけにはいきませんよね」


 そしてそんな虫で悩んでいるのは、ケロス共和国のフィト村で稲作に取り組んでいるアスカさんです。

 試しに始めた稲作ですが、最初に選んだ品種が良かったらしく無事田んぼには青々とした稲が育っています。村人総出で川から水を引いた甲斐があったというものです。

 アスカさんもアテナ様の加護を全開にし、人力ブルドーザーのごとき勢いで水路を掘りまくりました。

 その姿に村のじっちゃんばっちゃんは「ありがたやー」と拝みだし、若い男衆はドン引きしたのは言うまでもありません。


 しかし稲作は始まったばかり、まだまだ問題もあります。

 それなりに農業知識があるアスカさんですが、所詮それは現代日本で活用されるそれ。中世ヨーロッパに近い文明の異世界では通用しません。


「んー、来年を見越してなら害虫が冬を越えないようにする方法もあるんだが、すぐにできそうなのだと油くらいだな」

「油?」


 そんなアスカさんに助言しているのは、様々な知識を持つ小さな巨人スクナヒコナ様です。

 アスカさんの肩に乗り、すっかりマスコット状態です。


「水面に菜種油とか無害なやつをまいといてな、そこに害虫を払い落として窒息死させるんだ。ちょっと手間はかかるけど、いちいち害虫捕まえるよりはマシだろ」

「合鴨農法とかはダメなんですか?」

「ああ、ありゃ除草はともかく害虫は無理だ。そもそも雛鳥じゃないと雑草以外も食っちまうからな。毎年雛鳥集めるとかコストが馬鹿になんねえぞ」

「はあ、やっぱり万能な方法なんて無いんですね」


 がっかりしたように肩を落とすアスカさん。

 肩を落とした勢いでスクナヒコナ様が落ちていきましたが、すぐに何事も無かったように這い上がり肩に座ります。何がスクナヒコナ様をそこまでさせるのかは謎です。


「楽しようとすんなよ。作物は毎日世話してやってこそだろ」

「まあそのガキの言う通りだな」

「ガキって言うなチビ」

「誰がチビだガキ」


 流石農村で生まれ育っただけあり本能的に農業の真理に辿り着いたらしいサロスくん。

 そしてそんなサロスくんと当然のように喧嘩を始めるスクナヒコナ様。もはや定例行事と化しています。


「うーん。害虫のことを考えたら草刈りの時期も見極めた方が良いかな」


 そしてそんな一柱と一人をスルーして今後の対策を立てるアスカさん。

 今日も異世界は平和です。



「姉上。最近各地の神々から人間の嘆願が多いと報告が上がってきました」

「嘆願?」


 一方高天原。

 いつものように畳の上でゴロゴロしながらPCをいじっていたアマテラス様に、ツクヨミ様からそんな言葉が届けられます。


「最近私たちも人間界にそれとなく干渉していますからね。人々が神の存在を再認識し、信仰を新たにする者も増えてきたようです」

「うーん。喜んでいいのか微妙だなぁ」


 信仰されるのは神としては嬉しいのですが、人間が神様に頼りきりになってしまうのも問題です。

 そう思い眉をひそめながら嘆願のまとめを見たアマテラス様でしたが、そんな懸念は五秒で吹っ飛びました。


・逆召喚で正統派のエルフを召喚してください

・最近おっさんばかり逆召喚されてるので女の子をください

・もっとイケメンを召喚してください

・犬耳娘をお願いします

・もっと渋いおじ様を(ry


「知るかボケェッ!?」


 アマテラス様爆発。

 このままでは太陽でフレアが大量発生し太陽風が何かアレした影響で電磁パルスがコレして地球に降り注ぎ電子機器がソレしてしまいます(うろ覚え)


「何これ? 新しい信仰が芽生えた結果がこれ? もしかしてこれが最近話題のジェネレーションギャップ?」

「世代は関係ないですし、むしろジェネレーションギャップ自体が最近の話題ではありません」


 怒涛のつっこみをいれるアマテラス様に対して今日も冷静沈着百合好きなツクヨミ様。

 実はアマテラス様に嘆願を渡す前に目を通し似たような反応をしたのですが、隠れ中二病でカッコつけなツクヨミ様はそれを覚らせるような隙は見せません。


「……大丈夫かなこの国」

「因みに嘆願が増えた最大のきっかけは、姉上がうっかりあの吸血鬼に逆召喚を妨害され直接国会に乗り込み姿を晒したせいです」

「おのれきゅうけつき(棒)」


 自分が原因と聞いて即座に責任転嫁するアマテラス様。

 ツクヨミ様は相変わらず駄目だこの姉と思いましたが、自分でも無理があると思いチラチラ反応を窺うアマテラス様が可愛いので見逃すことにしました。


 今日も高天原は平和です。


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