ハンバーグには白米
「今日晩飯どうすっかなあ」
「ハンバーグが食べたい!」
「また微妙に面倒なこと言い出したなこの人魚」
アルジェント公国の港町にて。
さーて今日の晩飯はどうしようかとカオルさんが考えていたら、窓の外から身を乗り出し元気よく挙手しながらリクエストするディレットさん。
そしてそのままずるりと窓から落ちるように勝手知ったる他人の家に侵入。
貞○かな?
「面倒なの? この間わりと簡単そうに作ってたのに」
「あれはたまたまウェッターハーンの店で挽肉売ってたから。普通の肉なら結構置いてあるけど、どうやって挽肉にするのか分からんし」
挽肉を作るならフードプロセッサーを使うのが楽ですが、包丁である程度切り分けた後で叩きまくっても挽肉は作れます。
また挽肉はその製造過程と、空気に触れる面積が大きいため雑菌が増えやすく日持ちしないので、食べたい時に自家製挽肉を作るのもありと言えばありです。
そういう意味では恐いな冷蔵技術が未発達な異世界の挽肉。
人間辞めかけてるカオルさんなら大丈夫そうですが、
「包丁で? できるのか? めんどそうだけど、たまにはいいか」
「やったーハンバーグ!」
とりあえず出たとこ勝負でやってみることにしたらしいカオルさんと、リクエストが通って大喜びのディレットさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういやハンバーグって英語だとハンバーグステーキとかになってるけど、ハンバーグだけだと通じないの?」
「通じないと言いますか。まずハンバーグステーキ単体で食べるのが日本以外ではマイナーですからね。作り方もルーツとなったものとは変わってますし、ある意味日本生まれの洋食です」
「またいつものアレか」
洋食だと思ったら海外には存在しない、いつものアレ。
ちなみに某異世界な洋食屋でお好み焼きが出た時に「洋食じゃないやん」というある意味お約束なつっこみがされていましたが、お好み焼きのルーツの一つとされる料理は「洋食焼き」や「一銭洋食」と呼ばれていたので洋食と言い張れないこともないかも。
あともう一つついでに、先月G7に参加した各国首脳が広島でお好み焼きを食べていましたが、そのことについて英国の首相が「日本の総理からお好み焼きは広島が1番と聞いた。私も異論はない。とてもおいしかった」というコメントを残しています。
戦争がしたいのかアンタらは!?
「え? でもアメリカとかハンバーガーあるじゃん。ハンバーグを挟むからハンバーガーじゃないの?」
「ある意味そうですが厳密には違います」
「どっち?」
「元となった料理が同じなんですよ。ハンバーグは元はハンブルグ風ステーキとして日本に入ってきたものです。それが縮んでハンバーグと呼ばれるようになったとされていますね」
「ハンブルグ?」
「ドイツの都市の名前です」
ちなみにドイツの地名によくブルグとついてるような気がしますが、ドイツ語でブルグはお城や城砦を意味するそうです。
日本で言えば城之内とか堀之内みたいなもんだな!
「アメリカの方にもハンブルグ風ステーキが伝わりハンバーガーとなったわけですね。最初はステーキの方で伝わったそうですが、パンに挟むハンバーガーが主流となったためステーキ単体で食べられることはほぼなくなったそうです」
「へー日本とアメリカで別の方向に変わっていったわけね」
なおそのハンバーガーも日本で魔改造されまくってる模様。
ライスバーガーがバーガー名乗っているのをはたしてアメリカ人は許してくれるのか。
「月見バーガーなどは外国人にも人気らしいですね」
「季節じゃないのに名前出さないでよ食べたくなったじゃん」
「トヨウケヒメなら月見バーガーくらい作れるでしょう」
ツクヨミ様の不用意な発言のせいで、本日の夕食は月見バーガーになりました。
今日も高天原は平和です。