字が汚いのであまり使いたくない
「王宮内にファックスを導入できないだろうか」
「いきなり何無茶言ってんですか」
フィッツガルド帝国の帝都のとある喫茶店にて。
いつものように休日に趣味の喫茶店巡りをしていたら、案の定ミィナさんに絡まれたので、先制攻撃をかますローマンさん。
阿呆な事言ってるように見えますが、実は割と本気です。
「無茶かな?」
「まあやってやれないことはないと思いますけど、コストに見合うんですか? 電気の安定供給にしたって、発電所の類を作るみたいな大規模な技術の流入には慎重みたいですし」
「特例で太陽光発電を導入するか、兵士たちに訓練がてら自転車こがせるとか。停電時に備えて電池式のものもあるそうだから、一日中の供給は必要ないだろうし」
「太陽光はともかく自転車……いや、人海戦術でいけそうではありますけど」
ちなみに人力発電でよく出てくる自転車発電ですが、その効率はかなり悪く、成人男性が頑張っても一般的な家庭用太陽光発電の数百分の一程度しか発電できません。
つまり兵士数百人以上集めたらいけるな!
「そもそもローマンさんたちが使ってる端末、なんでこっちでも動いてる上にネットに繋がってるんですか?」
「さあ? そのあたりはグラウゼ殿がやったから」
「大概に好き勝手やってますねあの吸血鬼おじさん」
個人で異世界密輸入してたりと、異世界間を自由に行き来できるので割とやりたい放題してるグラウゼさん。
でも魔王様には迷惑をかけないよう、ヤバいことはバレないようにやる常識的なおじさんです(魔界基準)。
「つまりグラウゼさんに頼むと簡単に実現可能だけど、色んな取り決めぶっちぎるから公的な事業に噛ませるわけにはいかないと」
「個人でお願いするなら便利なんだけどねえ」
言外に自分も裏では取り決めぶっちぎってるとぶっちゃけてるローマンさん。
便利だからね。仕方ないね。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういやファックスを今時使ってるの日本くらいだって言われることあるけど、そんなにファックスって日本だと現役なの?」
「現役なところもありますが。そもそもファックスを使っているのは日本だけという認識が間違っていて、ファックスの購入台数が現在でも一位なのはぶっちぎりでアメリカで日本は二位。以降もドイツやフランスなどの先進国が続きますよ」
「そうなの!?」
実はファックスの市場はアメリカとカナダの北米だけで世界全体の半分以上を占めており、しかも未だ成長を続けていたりもします。
特に近年は感染症による在宅勤務が増えたため、その成長はさらに上がったのではという予測もあります。
「ええ……時代遅れとは何だったの。というかアメリカってデジタル万歳なイメージあるけど、まだファックス使ってるの」
「主に金融業界や医療業界、法律関連など、通信の安全性が重要な分野に需要があるそうですね。他にも理由は色々ありますが」
「あー。情報管理はデジタルよりアナログが強いとは聞くけど」
ちなみに昨今の感染症対策でも、アメリカの医療業界では医療システムが一本化されておらず、電子媒体での情報の共有が難しかったため、ファックスによるやりとりが頻繁に行われたそうです。
しかし同時に膨大な情報が紙媒体で送られてくることにもなり「手間かかりすぎんだろ、はよシステム効率化しろや!?」と問題にもなったとか。
「何百という検査報告がファックスで送られてきて、それを手動で集計したりしてたそうですね」
「何それ地獄?」
「しかもファックスなので重要な部分は手書きであり、解読するのが困難な文字で送られてくることもあったとか」
「地獄じゃん」
アマテラス様も認める紙地獄。
問題点が分かってもそれを解決するシステム導入するのには時間がかかるからね。仕方ないね。
現状なんとかなってるから対応しなくても大丈夫だろと上が判断することもあるけどな!
「やっぱり電子メールとかの方が手っ取り早いんじゃないの?」
「それはそうですし今後対応していくのでしょうが。個人相手や机仕事の少ない分野だと、相手がパソコンの前に居るとは限らないためそれこそファックスの方が手っ取り早いので、しばらくはまだ需要があるでしょうね」
「あーわざわざ起動しなくても届くもんね」
あと単純に紙の文書をどうやってデジタル化したらいいのか分からない人も居るからね。仕方ないね。
今日も高天原は平和です。