伊達や酔狂で匍匐前進してるわけではない
「騎士たちが鎧着てる意味ってあるんですか?」
「何よやぶからぼうに」
引き続きメルディア王国の食堂にて食後のコーヒー飲みながらだべってるオネエとカオルさん。
ちなみにコーヒーは元は宗教的な薬として扱われており、嗜好品として飲まれ始めたのは中東では15世紀ごろ、ヨーロッパでは16世紀ごろとされているので、ギリギリ中世ヨーロッパでの普及は間に合っていません。
まあそもそも異世界だからそんな地球の歴史関係ないけどな!
「いや今回は大丈夫でしたけど、ドラゴンに噛まれたり踏まれたりしたら鎧着てても死にませんか?
「死ぬわね」
「あっさりと!?」
人死にをあっさり認めるオネエと驚くカオルさん。
カオルさん自身は踏まれても死なないだろうから気にしなくていいと思うよ。
「えーじゃあ何で着てるんですか」
「そうねえ。例えばアンタのHPが100だとするわ」
「いきなりなんかゲーム始まった」
「ドラゴンから無防備に攻撃くらって100ダメージ受けてHP0になって即死するのと、10だけダメージを軽減できる鎧を着て90ダメージ受けて残りHP10で瀕死になるのどっちがいい?」
「どのみち死にかけてる!? いやそりゃ死なない方がいいですけど!?
生きているならラッキーだ。
いやこの例えだと死んだ方がマシな状態なのでは……?
「ファンタジー抜きな地球の鎧だってそうよ。銃どころか弓でも貫通するのは貫通するんだから、全ての攻撃を完全に防げるものなんてないの。大砲とかが出てきても、直撃したら当然ダメでも、飛んでくる破片とかは防げるから鎧は結構重要だったそうだし」
「あーつまり着ないよりはマシだと」
オネエの説明に納得するカオルさん。
ちなみに今回の話にはあまり関係ありませんが、先ほどからキーボードの終わり括弧の反応が悪くてたまに鍵括弧を閉じ損ねています。
「でもじゃあ何で先輩は鎧着ないんですか?」
「鎧より私のボディの方が硬いから」
「アンタ人間じゃねえ」
剣で斬られたり槍で突かれても筋肉で弾き返すからね。仕方ないね。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「え? 防弾チョッキって完全に銃弾防げないの?」
「条件が合っていれば大体は防げますが、防いでも運が悪ければ死にます」
「何で??」
防弾チョッキが完全には防弾できないことに疑問を覚えるアマテラス様と、冷静に最悪死ぬと言っちゃうツクヨミ様。
なお銃側の威力と防弾チョッキの規格とかに言及し始めたらキリがないので、その辺はざっくりと無視してお話は進みます。
「銃弾自体が防弾チョッキを貫くことは防げても、その衝撃までは完全に止められませんからね。当たり所によっては骨が折れたり内臓にダメージがいったりして、即死はしなくても大怪我となり得ます」
「あー凄いスピードで殴られるようなもんかあ」
ちなみに兵士が被っているヘルメットなども、余程銃弾の角度と発射距離が上手く噛み合わなければ、割と気軽に中にお邪魔してきます。
おう邪魔すんな帰れ。
「ええ……。鎧が廃れた原因の一つは銃が登場したからなんて話は聞くけど、そこまで対処法がないもんなの」
「急所だけ厳重に守ったり、死なない程度に軽減はできますよ。逆に全身を守ろうとすれば、重すぎて機動性が下がるためそうせざるを得ないとも言えますが。まあともかく1か0かではなく、いかに軽減するかというのも対処の一つですよ」
「あー完璧な対処法なんてないと」
そういう意味では、ミサイルが飛来したときに建物に避難したり頭を守って伏せるという対処法を「意味ないだろ」と嘲笑する人も居ますが、直撃ならともかく爆風や飛んでくる礫から身を守り生存率を上げるという観点では有効な手段です。
というかミサイルに限らず砲弾や爆発物などにも有効であり、世界各国の避難マニュアルに採用されているほど定番の対処方法です。
実際には爆発が起きても伏せずにスマホで撮りに行く人が多そうですが。
「じゃあ人間が知恵を絞っても対処が難しい銃弾を、条件がそろえば耐えられる熊さんは何なの」
「日本限定なら陸上最強の生物です」
結論。ヒグマやべえ。
いや冗談抜きで。
今日も高天原は平和です。