日本で初めて花粉症が確認されたのは昭和三十年代
「まさか異世界でも花粉症があるとは思わなかった」
アルジェント公国のとある街にて。
鼻水が水っぽ過ぎてかんでも意味がないので、丸めたティッシュを鼻に詰めるカオルさん。
風邪が中々治らないと思って病院行ったら「花粉症です」と言われた時の衝撃って大きいよね!
「花粉症?」
「あー。杉とかが飛ばす花粉に過剰反応して体調が悪くなるんだよ」
「……花粉?」
「そこからかー」
七輪で焼いた海老を豪快に殻ごと食いつつも、陸特有の事情と病気が理解できず首を傾げるディレットさん。
でも当然海の海藻も花粉を流して繁殖しています。
つまり人魚も海中で花粉症になる可能性が微レ存?
「あー花粉って言うのは……なんだろう。植物が子供を作るために飛ばす的な」
「子供を」
「おう。花粉を仲間に飛ばして、それを受け取ったら受粉っていって、動物で言ったら妊娠した的な」
「……つまりカオルは杉にセクハラされているの?」
「その発想はなかった」
何故か戦慄した様子で言うディレットさんと、言われてみればそうなのかとちょっと納得してしまうカオルさん。
植物からすれば「仲間のために飛ばしてるもん勝手に吸い込んで被害者面すんじゃねえよ」という感じかもしれませんが。
「大変……このままだとカオルが妊娠しちゃう」
「いやしねえよ。そもそも俺男だよ」
というか人魚は胎生なのかと思ったものの、今聞いたらさらなるカオスに発展しそうなのでやめておくカオルさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「異世界に杉あるの?」
「そりゃ探せばあるでしょうが。別に花粉症は杉以外でもなりますからね。例えばヨーロッパでの主な花粉症の原因はイネ科の植物ですし、地中海付近ではオリーブによる花粉症が一般的だそうです」
「稲で? 何で日本人のほとんどは平気なの?」
「イネと言っても米ができる種類はあまり関係なく、イネ科の雑草や牧草用の品種などが原因ですから。ヨーロッパでは牧草として育てられるものが多いため、花粉症になる人が多いそうです」
「あーなるほど」
ちなみにオリーブの花粉症は、日本でも瀬戸内海付近などのオリーブの栽培が活発な地域では発病する人がいるそうです。
……人類に逃げ場はないのか。
「まあイネ科の花粉は杉のように広範囲には飛びませんから。自宅付近に生えているとかでもない限り、そうそう花粉症になることはないそうですよ」
「え? じゃあ杉はどれくらい花粉飛ぶの?」
「ざっと数十キロメートルで、場合によっては百キロを越えるともされていますね」
「それもう兵器では?」
周囲数十キロの人類を苦しめる杉とかいう悪魔。
もう全部切り倒すべきでは?
「全部切り倒すには多すぎますね。一度禿山になったところに杉を植林したのでほぼ杉な山とかもありますし」
「なんでよりによって杉を!?」
「元から日本の固有種な上に木材として使える用途が多かったからです」
「合理的!?」
ちなみに現在の日本の森の四割が人工林であり、その内のさらに四割が杉とされています。
マジで杉だらけじゃねえかおまえの国ぃ!?
「まあ花粉症の存在が知られるようになってからは、花粉の量が少ない、あるいはない品種も開発されてますし。今ある人工林の杉を全てそれらに置き換える計画もあるそうです」
「やっぱり全部切り倒すんじゃん」
切り倒すにしても環境を考えたら代わりを植えないといけないからね。仕方ないね。
今日も高天原は平和です。