作者は魚食べられないけどな!
「カオルー。ししゃもとってきたから焼いてー」
「あーししゃもってこっちにも居たんだったかって多!?」
片手で網を背負いもう片方の手で匍匐前進しながら家に入って来たディレットさんに対し、そういやししゃもの旬って今頃だったかと思いながら振り返ったら、ししゃもが入っていると思われる網がサンタクロースの背負う袋みたいになってて驚くカオルさん。
ちなみに日本ではししゃもの漁獲量が減っており、カラフトシシャモ(カペリン)という輸入魚の割合が増えています。
スーパーで売ってる子持ちししゃもとかも結構な割合でカラフトシシャモです。
なおそのカラフトシシャモも枯渇の危険性が指摘され漁獲制限が行われている模様。
「どうやってとってきたそんな量」
「え? こうみんなで網もって追い回しながら追い込んで」
「お、おう。とりすぎないようにほどほどにしろよ」
なんかいつの間にか効率の良い漁の方法を編み出していた人魚たちに、ディレットさんをお姫様抱っこで運びつつ「こいつら魚とりつくさねえだろうな」とちょっと危機感を覚えるカオルさん。
まだ個人がやってる範疇だからヘーキヘーキ。……多分。
「とりあえず焼いたのでいいか」
「火がとおってれば何でもいい」
「さいで。というかおまえら元々は生で丸かじりしてたんだよな。寄生虫とかどうしてたんだ?」
「……寄生虫?」
「うん。大丈夫そうだな」
そもそも寄生虫の存在を気にしてなさそうなディレットさんに、まあ問題あったらとっくの昔に気付いてるよなと思考を放り投げるカオルさん。
ちなみにアニサキスによる被害が問題となり寄生虫に敏感な人が増えた時期がありますが、海の魚に寄生するものの中で代表的なものは人間が食べてもほぼ問題ありませんし、アニサキスのような食べたら問題あるやつも大体火をとおせば無害化できるので、見た目がキモイ以外に実はそれほど脅威はありません。
なお一部見た目だけでトラウマになるレベルのやつ。
しかし逆に言えば火を通さないとやばいのもいるので、生食用ではないものを生で食べるのはやめましょう。
魚屋さんだって売り上げと評判に関わるので、寄生虫対策には全力を尽くしているのです。
「というかここまで運んでくるの大変だっただろ。日本にいる人魚は人間の足に変化する魔術使えるらしいけど、おまえはそういうのできないのか?」
「うーん。頑張れば多分できなくはないと思うけど、できても普段二本足で歩いたことないから変化してもまともに歩けないと思う」
「あーなるほど」
そりゃ本来はないもん生やしても上手く扱えないよなあと納得するカオルさん。
あれ? 実はフェリータさん魔術以外でも凄い器用だったのでは?
「それにカオル見つけたら運んでくれるし」
「俺はおまえのアッシー(死語)か。いや別にいいけど」
もうおまえら結婚しちゃえよ。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういえば海と違って淡水魚は寄生虫ヤバいって聞くけど、川にも来ちゃう鮭とかはどうなの」
「ヤバいですね」
「ヤバいのかー」
ツクヨミ様のシンプルな解答にシンプルな感想を返すアマテラス様。実際ヤバい。
他の海水魚と同じアニサキスやサナダムシだけではなく、淡水魚特有の顎口虫などの寄生虫の危険性もあるという、ある意味寄生虫のハイブリッドです
「でも鮭のお刺身やお寿司って結構メジャーじゃない?」
「メジャーになったのが割と最近ですからね。以前は火を通して食べるのが当たり前でしたし」
「あれそうだっけ?」
日本で生サーモンが食べられるようになったのは八十年代後半ごろとされており、それまではツクヨミ様の言っている通りそもそも生で食べるという発想がほぼありませんでした。
では何故生サーモンが浸透したかというと、実は北欧の国であるノルウェーによる販売戦略のおかげだったりします。
ノルウェーでは当時すでにサーモンの養殖に成功していて寄生虫の心配もなかったため、生でも食べられる点をアピールし、刺身や寿司ネタとして売り込んだのが日本での生サーモン普及の始まりとされています。
「あーなるほど。固定観念を外国から破壊された形になるのかあ」
「まあ最近は子供の頃から生サーモンを食べていた世代が増えているので、生で食べることに違和感を覚える人間自体が減っているようですが」
「美味しいもんね鮭」
実際好きな寿司ネタランキングなどでは上位に位置することが多い鮭。
なお厳密には鮭とサーモンは区別して扱われる場合もありますが、ややこしいし美味しいからどうでもいいよね!
「そういえば鮭とイクラの親子丼とかいうのを食べてみたいと思ってたんだけど」
「いくらトヨウケヒメでもいきなり言われて鮭といくらを錬成はできないと思いますよ」
「前もって言われたら錬成できるみたいに言わないでください」
ツクヨミ様ジョークに台所から顔を出してつっこむトヨウケヒメ様。
今日も高天原は平和です。