何故か知名度はそこそこあるのにルールはあまり知られていないカバディ
「カレーのレシピを買い取らせてもらえないだろうか」
「ええ……」
ドワーフ王国のとある食堂にて。
なんかメルディアの王子様が護衛数人だけつけてやってきたと思ったら、真剣な顔で意味の分からないことを聞いてきて困惑するジュウゾウさん。
ちなみにその背後ではジュウゾウさんとは違って事情を大体把握したデンケンさんが「さあ、どうやって邪魔してやろうかな」と店主そっちのけで外交バトルを勃発させる機会を伺っています。
ジュウゾウさんの胃が死ぬのでやめてあげてください。
「カレーなら何度か勉強に来た宮廷料理人の方に教えてますが?」
「いやそれは知っているけれどね。肝心のスパイスの調合のあたりは今も手探り状態だと聞いてね」
「所詮日本の市販のルー以下ですしー」
「うん。君さては料理に関してだけ面倒くさくなるタイプだな?」
突然大人げなく拗ね始めたジュウゾウさんに、どうしたものかと考えるハインツ王子。
ちなみにその後ろでは邪魔しようとするデンケンさんと、護衛のオネエが牽制し合ってカバディみたいな状態になっています。
「重要なのは君のレシピはこちらの材料だけでも作れるという事だよ。つまりウェッターハーン商会を介さなくてもカレーを作れるという事だ。これは大きな武器になる」
「え? まだウェッターハーン商会に牛耳られてないスパイス産地があったんですか?」
「そこかよ」
既に大陸全土はウェッターハーン商会に支配されていると思っていたので驚くジュウゾウさん。
多分時間の問題だと思うんですけど。
「カレーの人気が庶民の間でも高まっているしね。多少味は落ちても安価に大量に仕入れることのできるルートが欲しいんだよ」
「そうですねー味落ちますもんねー」
「君面倒臭いな」
再び拗ねるジュウゾウさんと呆れるハインツ王子。
そしてその後ろでオネエ相手に反復横跳びで突破をはかる無謀な挑戦を開始するデンケンさん。
諦めずに反復横跳びを続けるあたり、料理人が体力勝負だという事がよく分かります。
「まあレシピくらいなら教えますし、商品化とかはそちらでやるなら何も言いませんけど」
「ありがとう。では報酬の件だが……」
とりあえず一応は交渉が成立し細かいところを話し合い始めるジュウゾウさんとハインツ王子。
「ぐっ……足の筋肉が……」
「持久力と根性は中々だけれど、体の方がついていかなかったみたいね」
そしてその後ろで密かに決着がついていたデンケンさんとオネエ。
何やってんだこいつら。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういえばイギリスでは日本式のカレーは全部『カツカレー』って呼ばれちゃってるの、改善されたの?」
「カップ麺のカレー味が『カツカレー味』として売られているので、もう手遅れかと」
「そっかー」
ちなみにそのカップ麺とは、恐らく日本一有名であろうヌードルなアレです。
ローマ字で思いっきり「KATSU」と書かれているので、もはやイギリスではカツカレーはカツカレーではないのだと受け入れるしかありません。
「まあそのあたりは日本にだけは言われたくないでしょうし」
「それはまあうん」
そもそも日本のカレーが魔改造の産物だからね。仕方ないね。
「でも一応日本のカレーって英国式に近いんでしょ? なんでそんな区別されてんの?」
「恐らくイギリスではカレーが一度ほぼ廃れたからでは?」
「え? イギリスのカレー廃れてたの?」
「料理店などでは普通に出されていましたが、家庭料理としてはあまり作られなくなったそうですね。一説には部屋や衣類に臭いがうつるのが嫌われたとか」
「ええ……そんな気になるほどかなあ」
ちなみに皮肉なことに、イギリスで家庭料理としてのカレーが衰退していった1900年代後半に、日本ではルー式のカレーが普及したり世界初のレトルトカレーが発売されたりと、家庭料理としてのカレー人気が高まっていっています。
とはいえイギリスでカレー自体が不人気となったわけではなく、インド料理店などの数は多く、外食としての人気はあり続けたそうです。
「あーじゃあ英国式じゃなくて本場のカレーに回帰しちゃったみたいな?」
「恐らくは。まあ家庭料理の話になるので、もしかすれば探せば英国式カレーのレシピを今でも引き継いでいる家などもあるかもしれませんが」
「そんな今でも味噌作ってる家庭は作ってるみたいな」
ちなみに作ろうと思えば、通販などで初心者でも安心な味噌作りセットなどを購入することはできます。
便利な世の中ですね。
今日も高天原は平和です。