前回で400話だと感想で指摘されてから気付いたでござる の巻
「そういえばこっちって月見をする習慣ってないのかしら?」
「月見?」
メルディア王国の王宮の中庭にて。
警備のための巡回の最中に、最近暗くなるのが早くなってきた空を見上げながら言うオネエと、不思議そうに首を傾げるグレイス。
ちなみにこの時期は日没が毎日一分前後ずつ早くなっていきます。
「月を見てどうするのだ?」
「どうするって。見事な満月を見て楽しむというか」
「……満月は魔物の類が活発になり危険なので楽しむ余裕などないのでは?」
「おおっと。そう来るのね」
まさかの異世界事情に驚くと共に納得するオネエ。
グラウゼさん(吸血鬼)とかマカミさん(狼男)は満月でヒャッハーするからね。仕方ないね。
「俺は犬ではないがモンスター的な意味での狼男でもない」
異世界にまでつっこまないでください。
「そういえば私の世界でも月は人を狂わせるなんて言葉があったかしら。もしかして月見自体がそんなにメジャーじゃないとか?」
「それだけユキの故郷が平和だったのでは?」
「うーん。何か月見関連の料理でも作ろうと思ってたんだけど、そういうことなら遠慮した方がいいのかしら。というかジュウゾウさん月見関連の料理とかうっかり出してないかしら」
「ドワーフ王国は地下にあるのでそもそも月が見えないぞ」
「そうだったわ」
そもそもドワーフさんたち美味しければ細かいことは気にしないと思う。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「月は人を狂わせるねえ」
「何という風評被害」
「ええ……」
恋人との逢引き邪魔した男を思いっきり狂わせた伝承があるのに、平然と風評被害を訴えるツクヨミ様。
でもこれ狂わせてるの月じゃなくてツクヨミ様だな?
「まあそう言った話は西洋の方が多いですよ。何か異常事態が起きると『外は満月に違いない』という言い回しもあるそうですし」
「ああ。やっぱり満月のイメージあんまりよくないんだ」
ちなみに「満月の夜は犯罪が多くなる」という話もありますが、実際そういう結論に至っている研究と、相関関係はないとしている研究があるので、断言できるほどハッキリとしたデータはないようです。
「そのせいか月見は中国や日本をはじめとした東アジアで多い行事ですね」
「へー。やっぱりお団子供えるの?」
「関連性はハッキリとしていませんが、サトイモの収穫祭と被っている地域が多いですね」
「何故サトイモ」
実際日本でも江戸時代の初めごろは月見と言えば芋煮であり、月見団子が供えられるようになったのは江戸の中頃以降だとされています。
そのため月見団子はサトイモをかたどっているとも。
ちなみに東北地方や愛媛県の一部では、月見を兼ねて芋煮あるいはいもたきという鍋料理を食べる習慣があり、その辺の河川敷が何故か会場になって宴会が行われます。
いやマジでその辺の土手でシート敷いて鍋食ってるんですが何で??(みかん県民
「何それ楽しそう」
「最近は例によって自粛するところが多かったそうですが、今年は行う地域が増えているそうですね」
「トヨちゃーん。芋煮作ってー」
「いきなり言われてもサトイモがないでしょう」
「ありますよ」
「ええ……」
無茶ぶりするアマテラス様に対し、バッチリ予想していたらしいトヨウケヒメ様。
今日も高天原は平和です。