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異世界転生に殴り込む(物理)



「すまん。間違えて死なせてしまった。お詫びに異世界に転生させてや……」


 偉そうな爺さんの顔面に青年の右ストレートが炸裂する!


「ひでぶっ!?」

「間違えたって何だゴルァッ!? 転生させる前に生き返らせろよ、何か神っぽい爺さん」


 鼻血をボタボタと流すご老人に青年が容赦なくつっこみを入れます。

 最近の若者はキレやすくていけません。

 むしろ最近の若者は大人しくて老人の方がキレやすかったりするのですが、いつの時代も「最近の若い者は」と言われるのは定番なのでつっこんではいけません。


「神って分かってるのに殴る!? 転生特典やらんぞ!?」

「よし、いらんからもう一発殴らせろ」

「ヤメテ!?」


 ある意味脅しのようなことを言う神様ですが、青年はそれが気に食わなかったらしくシャドーボクシングを始めます。

 どうやら青年は生前ボクサーだったようです。

 このままでは神様の命が危ういです。


「ほら、おぬし強くなりたいとか大真面目に言っちゃうタイプじゃろ。なら良いぞ転生特典。鍛える過程が大事なら努力が報われるタイプの特典とか」

「む……」


 神様の言葉に青年がシャドーを止めて考え始めます。

 それを見てチョロイぜと笑う神様。もう一発殴られても仕方が無い反応です。


「その転生ちょっと待ったー!!」

「はい?」


 しかし青年が丸め込まれる寸前、二人しか居なかった白い空間に何者かの声が響き渡ります。


「名前で雷神だと思われがちですが実際雷神。どうも、武御雷神です」

「だ、誰だぁー!?」


 突如現れたのは白い装束を纏った男性神。

 何か神様がつっこんでますが、既に名乗ったのでタケミカヅチ様は華麗にスルーです。


「青年。安易に異世界に転生等してはいけない。異世界に転生するとこちらの魂の絶対数が減って、黄泉の支配者であるイザナミ様が激おこで、我々のストレスがマッハなのだ!」

「いや、アンタ本当にタケミカヅチか!?」


 あまりに残念なタケミカヅチ様の言語回路に青年がつっこみを入れます。

 これもまた高天原にインターネットが普及した弊害でしょうか。

 フィルターを導入するかオモイカネ様が悩むのも仕方ありません。


「ん? アンタがタケミカヅチならあっちの神様は誰だ?」

「!?」


 青年が指さすと、神様がビクリと震えます。

 もう何かやましい事があると言わんばかりの反応です。青年がジト目になるのも当然です。


「ああ、アレは名も無い低級神。というかもう精霊とかに近いのではないか、あのレベルだと」

「は? そんなのに異世界転生とかできるの……できるんですか?」

「まあ肉体の無い魂だけなら境界線を越えるのも容易故、異世界トリップよりは簡単だな」

「だからそういう単語をどこから」


 どうやら自称神様は神であるかどうかも怪しい存在だったようです。

 皆さんも自称神様に会ったときは気をつけましょう。


「まあ、ああいった存在が大物を騙るのはよくある。そうやって人を騙して信仰を得てパワーアップを計るわけだな。異世界転生させた人間の魂が強くなれば、信仰による補正も大きくなるしな」

「仮に転生させられても欠片も信仰しそうにないんですが」

「そこまで考えてないのだろう」


 既に身バレした自称神様は、白い空間の隅っこでプルプル震えています。

 どうやらマジモンの神様であるタケミカヅチ様の神気にあてられているようです。

 自業自得なので青年もタケミカヅチ様も助けようともしません。


「さて、流石に可哀相なので、君には来世で私が加護を与えよう。異世界に行くわけではない故、大した効果はないが」

「まあ俺も異世界に行くつもりは無かったからいいですけど。どんな効果があるんですか」


 そして仕舞いには二人は自称神様を無視して話を進めます。

 せめて幼女の姿で現れていたら一定の支持を得ていたでしょうが、爺なので仕方ありません。


「うむ。私の加護を受けると――」

「受けると?」

「――相撲が強くなる」

「何故に!?」


 あまりにピンポイントな加護に青年がつっこみます。

 仮に相撲が強くなっても、ボクサーな青年が転向するには壁が厚すぎる挑戦です。


「知らんのか? 私は相撲の開祖だぞ。タケミナカタと力比べをするときに相撲をやってな。勢い余ってタケミナカタの両腕取れちゃったけど仕方ないね」

「何それ恐い」


 一説には相撲で取ったのではなく、凍らせたり切り落としたりしたらしいですが、どちらにせよ恐いので関係ありません。


「駄目か? むう、ならばちょっと体が発電する程度の加護を」

「その加護を現世でどう役立てろと」


 発電はちょっと便利そうですが、家電製品を根こそぎ壊滅させかねません。

 電圧の調整というのは意外にシビアなのです。


「普通に勝負運が良くなる加護とか無いんですか?」

「あるよ」

「あるんかい!?」


 名前のせいで雷神なことばかりがピックアップされるタケミカヅチ様ですが、武神としての側面も持っています。

 勝負運をあげるくらいお茶の子さいさいです。


「……じゃあそれで」

「承知した。では元気でな青年。君は前世の記憶を失うだろうが、私は君のことを忘れない」

(……むしろすぐにこの記憶焼き消したい)


 あまりに残念な自国の神様の姿に、青年は心からそう願うのでした。



「アマテラス様。異世界転生を無事に阻止……どうされました?」


 タケミカヅチ様が高天原に帰還すると、アマテラス様が畳の上を唸りながらゴロゴロと転がっていました。


「……オモイカネにネット禁止されて暇なの」

「それは……オモイカネめ、何と非道な!?」


 怒るタケミカヅチ様ですが、アマテラス様は掲示板で情報流出させまくるので仕方ありません。

 現在オモイカネ様監修によるネットリテラシー教育が進められています。


「……タケミカヅチもしばらくネット禁止だって」

「何と!?」


 叫ぶタケミカヅチ様。

 今日も高天原は平和です。


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