飲まずにはいられない
今日も今日とて審議が続く国会。
審議ってそんなに長くやるものなのかと疑問に思う人も多いでしょうが、余程延長しない限りはそんなに長いことやったりはしません。
ついでに国会閉廷したら召喚返しどうなるのと疑問に思った人も居るかもしれませんが、それは作者にも分かりません。
大丈夫。きっとアマテラス様が何とかしてくれます。多分。
「ああ、そういえば今日召喚返しがあるそうです。それで以前から指摘のあった冲田議員の……」
「いや、サラリと何言ってんですか総理!?」
答弁中についでのように重大発言をした安達くんに、つっこみのお兄さんこと若手議員のつっこみが入ります。
他の議員が既に何かを諦めてしまっている中、ひたすらつっこみを続ける若手議員の人気は密かに上がっていたりします。でも本人はつっこみで人気が上がっても嬉しくないので、最近自分も諦めちゃおっかなとか思ってるのは内緒です。
「大体どこからの情報ですかそれは?」
「リィンベルさんです」
「はい? 何故リィンベルさんが?」
意外な答えに、議員たちの視線が国会の隅っこでグライオスさんと一緒に待機しているリィンベルさんに集まります。
「実はリィンベルさんはアマテラス様にその厚い信仰が認められ、この度アマテラス様の巫女として認められたそうです」
「巫女!?」
衝撃。現代日本に太陽神に仕えるダークエルフの巫女が誕生しました。
国会に来るときは実は空気を読んでスーツを着ているリィンベルさんですが、正装として巫女服が採用される時が待たれます。
「それでこれからはアマテラス様の御言葉はリィンベルさんを通じて――」
「ここが日本かああああぁぁぁぁッ!!」
説明を続ける安達くんの声をかき消すように、突如野太い男のだみ声が国会に響き渡ります。
「くぅ……ついに、ついに念願叶ったのじゃなぁ」
何やら感動して泣いているのは、安達くんの腰くらいの身長しかない立派な髭を蓄えたおっさんでした。
背中には登山家が背負ってそうなリュックの上に剣やらハンマーやら物騒なものがくくりつけられており、もうこれでドワーフじゃなかったら逆に吃驚だよというくらいドワーフです。
「ようこそ日本へ。私は内閣総理大臣を務めております安達と申します」
「お、おお。すまんなつい感極まった。ワシはドワーフ王国のオグニル。ジュウゾウに代わり召喚に応じたぞ」
相変わらず冷静な安達くんに触発されたのか、正気に戻り名乗るやっぱりドワーフなオグニルさん。
最初に雄叫びを上げていた割に話せば分かる人のようです。
「ジュウゾウさんというのはもしや日本人でしょうか?」
「おお。最近になってふらりとやって来た料理人でな。余所者なんで最初は皆も警戒しとったんじゃが、何せ作るもん全てが美味くてのう。今じゃドワーフの間じゃ知らぬ者が居ないほどの料理人じゃよ」
どうやら今回異世界に迷い込んだ日本人は、異世界でも柔軟に対応できるほど凄腕の料理人だったようです。
無事なのは喜ばしいですが、そんな料理人が異世界に流出したことに遺憾の意の発動が待たれます。
「しかし念願が叶ったとは、日本に来ることに何か目的がおありで?」
「おお。実は日本人に会ったのは初めてでは無くての。ワシがガキの頃にのたれ死にかけていた男を助けてな。その時の礼にとこの刀をもらったんじゃ」
「刀……失礼ですがそれはどれくらい前のことでしょうか?」
「ざっと百五十年は前じゃな」
さらっと日本人的にはあり得ない数字が出てきましたが、リィンベルさんに比べたら大人しい数字なので議員たちも冷静です。決して考えることを止めたわけではありません。
「この刀の切れ味。美しさ。もう百年も再現しようとしとるんじゃが上手くいかなくてのう。そこに来ての今回の日本への召喚返しじゃ。もうワシやっちゃうよ!? こっちの技術学んで刀量産しちゃうよ!?」
「量産は困りますがお気持ちは分かりました」
どうやらオグニルさんは日本刀に魅入られてしまった刀馬鹿だったようです。
しかし実は日本刀を作るには国の許可が必要で、その許可をもらうために五年以上の修業が必要だったりします。
短気で気難しいドワーフが弟子入り。受け持つことになる刀匠の胃に穴が開かないか懸念されます。
「あとあれじゃ。ジュウゾウが店を開いたときに、お祝いじゃと言うて故郷の酒をふるまってくれたんじゃがな……」
「……?」
突然消沈したオグニルさんに議員たちが不思議そうに顔を見合わせます。
しかしリィンベルさんは一人耳を塞いでます。エルフとドワーフは仲が悪い。故に予想がついたのでしょう。次に何が起こるのかを。
「何で一本しか無いと教えてくれなかったんじゃああああぁぁぁぁっ!? あまりに美味くて一気に飲み干してしまったんじゃああああぁぁぁぁっ!?」
オグニルはおたけびをあげた!
議員Aはすくみあがった!
議員Bはすくみあがった!
若手議員はすくみあがった!
安達はへいきだった!
「……グライオスさん。この前行った居酒屋の予約お願いします」
「承知した!」
元皇帝に居酒屋の予約を頼む総理と、輝くような笑顔で親指を立てる元皇帝。
つっこみどころ満載の光景ですが、残念ながら若手議員は驚き竦み上がっていたので誰もつっこめませんでした。
今日も日本は平和です。