餅つき(餅をつくとは言ってない)
「魔王様! 勇者が侵入してきました!」
「またかい!?」
魔王様の居られる魔王城。魔王様のトラップ好きが何か変な方向にエスカレートし、風雲た○し城みたいになっているその城に、今日も配下の元気な報告が響き渡ります。
ちなみに風雲た○し城が何なのか分からない人は、某筋肉な番組のSASUKEみたいなものだと思ってください。ただし自動的に作者の同年代から敵認定されます。
「私は人間と争わんて言うてんのに、何でこんなに頻繁に勇者が来るねん!?」
「どこにでも頭の固い奴らは居るからな。それに最近来ているのは、おまえを倒して名をあげたい、中途半端なレベルの勇者もどきばかりだ」
魔王様の叫びに紅茶を啜りながら暢気に答える勇者様
国に命令されて魔王が本当に敵対しないか監視しに来ているのですが、最近は「放っておいても大丈夫だろこのポンコツ魔王」とか思ってるのは内緒です。
「……ていうか勇者ってそんなにいっぱい居るん?」
「称号みたいなものだからな。しかし俺の国で認定されてるのは俺だけだ。その国はおまえとの関係を変えるのに割と前向きだし、神殿の方が魔族憎さに勇者を認定しまくって量産してるんじゃないか?」
「何そのありがたみの無い勇者」
異世界の勇者はまさかの量産型でした。どこかの蘇らないようにはらわたを食い尽くしてもやっぱり蘇る勇者様とは大違いです。
「……もう私我慢するのやめていいかな? サクッ☆と殺っちゃって良いかな?」
「正当防衛と言えなくはないが、人間からの評判は間違いなく悪くなりある意味神殿の狙い通りだな」
「うがー!? どこまで陰険やねん聖職者!?」
「あのー?」
「なんや!? ……って兎?」
不意に声をかけられて魔王様が振り向けば、そこには真っ白な毛皮の兎が居ました。
ひくひくと動く鼻がラブリーです。でも今は切羽詰まってるので触ってはいけません。
「あ、どうも。ボクは因幡の白兎です。最近日本人な魔王様がお疲れ気味らしいので、助けてあげるようにオオクニヌシ様に頼まれて来ました」
因幡白兎。
名前だけなら誰でも知っている兎ですが、実は古事記にも登場する由緒正しい兎だったりします。
毛皮を剥がれて苦しんでいるところを八十神に騙されて、見事に傷口に塩を塗り込まれてさらに苦しんでいた所をオオクニヌシ様に助けられた兎です。
因みにシロウサギが皮を剥がれたのは、海を渡るために和邇を騙して並ばせて橋にしたのものの、最後の最後に「ププッ騙されてやんの」と漏らして和邇を怒らせたせいだったりします。
自業自得ですね。
「うん。癒しは嬉しいけど、今はちょっと取り込み中やから話は後でええかな?」
「大丈夫です。侵入者が来てるんですよね? ボクが殺さずに追い返してみせます!」
「え? 君が?」
フンと鼻息荒く宣言するシロウサギですが、やはり見た目は兎なのでプリティーでしかありません。
しかし世の中には冒険者の首をはねるのが趣味な兎もいるので侮ってはいけません。
「じゃあちょっと頼もうか……」
「ここか魔王!?」
「もう来よった!?」
「最近襲撃が多すぎて罠の補充してなかったものね」
重厚な扉を蹴破り現れた自称勇者たちに、魔王様が焦りミラーカさんは暢気に紅茶を淹れています。魔王様と違って人間は餌程度にしか思っていないので余裕ありまくりです。
「魔王め! これまでの数々の悪逆をあの世で後か」
「杵アタック!」
「鈍器!?」
「あ、アルフー!?」
しかしそんな自称勇者に、シロウサギが手にした杵で殴りかかりました。
「ちょっ!? 何やってんの兎さん!?」
「大丈夫です! 死んでません!」
「いや四肢がおかしな方向に向いてエグイことになっとんやけど!?」
確かに、今の一瞬で一体幾度殴ったのか、自称勇者の全身が滅多打ちにされてます。
それでも死んでない絶妙な半殺しっぷりです。
「説明しよう! 杵アタックとは餅つきを邪魔されたくない兎たちがあみだした究極の護身術なのである!」
「絶対嘘やろ!?」
「名付けて因幡撲殺拳!」
「撲殺言うたし!?」
ノリノリで言い放つシロウサギ。相変わらず可愛いですが、毛皮についた血のせいでホラーです。
夜道で会ったら回れ右して全力疾走で逃げるレベルです。
「というわけで、残りも速やかにやっちゃいます!」
「……うん、もう死なんなら良いわ」
『よ、よくねえ!?』
殺る気満々なシロウサギと何かを諦めた魔王様。自称勇者の仲間たちが抗議しますが、この魔王城に味方はいません。
本物の勇者様もミラーカさんと紅茶片手に傍観者気取りです。
「臼クラッシュ!」
「臼は投げるモノじゃガハッ!?」
「ブライアーン!?」
青年神官を初めに次々とシロウサギに餅のようにつかれていく冒険者たち。
悲鳴と血が飛び交い阿鼻叫喚です。
こうしてシロウサギは魔王城に現れる自称勇者たちを次々と撲殺し、一週間が経つ頃には「魔王城の赤い兎」という噂が広がり襲撃者は激減するのでした。
今日も異世界は平和です。