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異世界オネエ物語5

 騎士団。

 騎士団と一口に言ってもその内実は様々であり、一般的に想像されているような騎士が多数所属する戦闘集団というのは少数だったりします。

 その多くは各地の領主や君主が参加する同盟、名誉クラブのようなものであり、実戦を想定した軍事組織では無かったのです。


 因みに英国女王が長を務めるガーター騎士団には多くの君主が参加しており、日本の天皇陛下もその名を連ねていたりします。

 日本人にも把握しきれないほどよく分からない陛下の立場に、さらによく分からん属性が追加されました。


 さて、そんな地球では存在そのものがファンタジーな騎士団ですが、異世界ではちゃんと騎士たちの集団として機能しており、騎士道精神を重んじる者は周りから尊敬されています。

 そしてそんな騎士団の一つに所属するオネエですが、いつの間にか副団長に任命され騎士になったのを絶賛後悔中でした。主に団長のせいで。


「あっはっは! 楽しいなユキ!!」

「真剣で心臓狙われても楽しか無いわよ!?」


 どこかいっちゃってる表情で笑う団長と、珍しく青筋立てながら叫ぶオネエ。

 団長は刃引きもしてない愛用の剣で刺突しまくり、オネエはそれらを相変わらず素手で捌いています。

 一応模擬戦ということにはなっていますが、傍から見たらどう見ても死合いです。


「またやってるのか団長と副団長」

「副団長のおかげでこっちの被害が少なくなって助かるよなぁ」

「というか副団長は何で素手で剣を防げるんだ?」

「この前聞いたら『簡単よ。刀身の腹を弾いて反らせばいいの』と言っていたぞ」

「それのどこが簡単なんだ」


 一方暢気に観戦している他の団員。

 無責任なように見えますが、彼らでは束になっても敵わない怪獣が二人も暴れているので賢明な判断です。

 辛うじて割って入れるのはグレイスくらいですが、そのグレイスも先日介入するタイミングを誤り城壁の外まで吹っ飛ばされました。その後完全にキレちまったグレイスにオネエと団長が平謝りしたのは言うまでもありません。


「奥義! グランツシュヴァルペ!!」

「訓練で魔力使うなって言ってんでしょうが!?」


 その後、テンションが上がった団長から何かオーラっぽいものが放出され練兵場が半壊しましたが、何故かオネエは無傷でした。



「いやー、またグレイスに怒られちゃったなあ」

「……全面的に団長が悪いのに、何で私まで怒られるのよ」


 数時間後。騎士団のオカンことグレイスにこってり絞られた二人は、ようやく解放されて一息ついていました。

 何か元凶である団長よりオネエの方が疲れているのは気のせいです。

 こう見えて団長も心の中では深く反省しているのです。嘘ですが。


「はあ、ともかく私もう帰るわ。それじゃあま」

「まあ待てユキ」

「たぁ!?」


 立ち去ろうとしたところで頭を掴まれ、オネエの首がグキッといきました。

 人間の首は意外に脆いので、ノンケは真似してはいけません。


「何すんのよ!?」

「相変わらず冷たいなあユキは。むしろ私にだけ冷たくないか?」

「だからしなだれかかるんじゃないわよ!? はしたない!?」


 オネエの巨体に乗っかるように肩を組む団長と、それを必死に引きはがすオネエ。


「なあユキ。そんなに私は奥方に似てんのか?」

「……」


 しかしそんな抵抗も、不意に見せた団長の真剣な瞳に止められました。


「……団長」

「話は聞いてる。おまえの胸中複雑だろうな。だけどな、このまま私から――奥方の影から逃げ続けるつもりか?」

「……」


 普段からは考えられない真摯な声に、オネエは何も言えませんでした。


「亡き妻に操を立てる。なるほど立派な心がけだな。だけどな、おまえ奥方を言い訳にして、奥方との約束を守るという建前で、前に進むのを諦めてないか?」

「何を言ってるのかしら。私は私なりに新しい恋に生きて……」

「ああ、おまえの男色趣味か。そもそもそれが私にはおかしく見える。奥方に一途なおまえが、一方で男をとっかえひっかえだ」

「だからそれは……」

「誰でも良いのか? そうだな。誰でも良いんだおまえは。そんな代償行為で満たされることなどないと、本当は理解してるんだから」

「……」

「温もりを求め、それでも得られないおまえは――」


 ――一人ぼっちで泣いている子供のように見える。


「……」


 団長の言葉に、オネエの顔が凍り付いたように動かなくなりました。


「……」


 動かない。動けない。ただ時間だけが過ぎていく中で、ただ団長はオネエを見つめています。



「……ッ!」


 そしてどれほどの時が経ったのか、オネエの顔が悲痛に歪み、震える唇から声が漏れた。


「アンタに何が分かるのよ!?」


 凍てついた氷が溶けるように、張り付いた仮面を砕くように、オネエの口から悲痛な叫びが放たれる。


「ずっと一緒だった。親よりもずっと一緒に居たのよ。人と違うせいで孤立して、それでもマコトだけはいつもそばに居てくれて、私にとってはマコトだけが世界の全てだったのよ!?」


 それは依存とすら言える執着。だけど確かにそれは愛であり、彼を支える力だった。


「周りが変わって、手の平を返してもマコトは変わらなかった。あの子だけが私の全てを肯定してくれた。これからもマコトがそばに居るならどんな理不尽にも耐えられるって、耐えられるって思ってたのに、いきなり……いきなりだったのよ!」


 両手で顔を覆いあげる声は泣いているようで、聞く者の胸を痛める悲しみに満ちていた。


「どうしてマコトだったの!? 何で他の有象無象じゃなかったのよ!? 私にはマコトさえ……居てくれれば……居ないから……もうどうすればいいのか……」


 言葉から力が消えていき、それに比するようにオネエの体が項垂れていく。

 そんなオネエの体を、団長は優しく抱きとめる。


「おまえは不器用だな。きっと泣き言を周囲に漏らすことも無かったんだろう。おまえは強いと、おまえを見た誰も彼もが思ってしまうから」

「……わ、私は……どうして……」

「泣けばいい。叫べばいい。世の理不尽を怨み、呪えばいい。存分に悲しんで、その悲しみを受け入れろ。そして前を見て歩け。奥方もきっとそれを望んでいる」

「私……は……ああああぁぁぁぁっ!!」


 かすれた声で請うように、嗚咽を漏らすオネエ。やがてそれは慟哭へと変わり、ただ激しく嘆く悼みへと変わった。


「まったく“相変わらず”世話を焼かすなおまえは」


 そんなオネエを、団長は優しく包み込んでいた。ひな鳥を守る親鳥のように優しく。



「やっと寝たか。流石に体力が有り余ってんな、縋り付いたのが私じゃなきゃ全身の骨が折れてたぞ」

「……」


 夜も深まり深夜といって良い時間帯。散々泣いて眠ってしまったオネエを膝にのせて、団長は困ったように笑った。

 そして視線を向けた先には、夜の闇の中で微かに光る何かが一つ。


「勘違いすんな。私は私だ。『マコト』じゃない。代わりにはなれないし、そもそもなる気も無い」


 断言する団長。それに抗議するように、光は明滅する。


「煩い。目的はすんだんだろ。ならさっさと黄泉とやらに帰れ。死んだ者がこれ以上干渉するな」


 機嫌の悪さを隠そうともせず言う団長に光は何度か明滅して見せたが、やがて夜の闇に溶けるように消えていった。

 残されたのは団長と眠っているオネエだけ。


「まったく。そんなに心配ならもっとマシな遺言を残しとけってんだ」


 そう言うと、団長は苦笑して眠っているオネエの頭を撫でた。


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