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この作者にまともな逆ハーが書けるとでも思っていたのか

 フィッツガルド帝国。

 大陸でも有数の巨大国家であるこの国の学府は、有能であれば生まれや経歴を問わずその門戸を開いている。そして学府の卒業生をそのまま国の傘下におさめる事により、より良き人材の確保を行っているのである。

 そしてそんな学府の今期の在学生の中で、内外を問わず注目を集めている少女が二人いる。


 一人はヴィルヘルミナ・フォン・インハルト。

 前皇帝グライオスの懐刀と呼ばれたインハルト候の娘であり、自身も政治経済に深い造詣を持つ才媛。

 大人びた容姿とそれに見合う落ち着いた性格もあり、学府の他生徒――特に少女たちからの人気が高い。


 一人はミィナ・ウェッターハーン。

 中堅の商家の娘と家柄はヴィルヘルミナには劣り、学問においても専門と呼べるほど秀でたものを持たない。

 しかしその基礎知識は幅広く、好奇心は旺盛であり理解力と応用力に優れ、飼い葉を貪る馬のように知識を蓄えている。故に卒業を待つ時期には他に類を見ない万能の知を持つ者となるのではと、多方面から期待されている。


 そんな二人の才女であるが、学内では仲が悪いことで知られている。

 それはヴィルヘルミナの婚約者であるローマンがミィナに懸想しているからであり、一人の男を巡り二人はどちらが女として上か日々争い鎬を削っている。


 ……なんてのは、まったく嘘だったりする。



「いやー、やっぱり疲れた時は甘いものですね。勉強って楽しいけど、あんまり熱中すると頭が痛くなってきて」


 そう言ってケーキをパクパク食べているのは、小柄な黒髪の少女です。

 見た目こそ儚げですが、その態度は能天気な子供そのものであり、甘味に満足して満面の笑みを浮かべています。


「貴女は少し休むということを覚えなさい。ほら、頬にクリームがついてますわよ」


 そしてそんな少女の世話をかいがいしく焼いているのは、長い銀髪を後頭部でシニョンにしたつり目の少女。

 口調こそきつめで威圧感たっぷりですが、その本質は甘ちゃんらしく世話好きな少女です。


 ヴィルヘルミナさんとミィナさん。仲が悪いとされている彼女たちですが、実際はそれなり……というか、かなり仲は良いようです。

 ミィナさんの後先考えない能天気っぷりと、ヴィルヘルミナさんのお節介体質が上手くマッチした結果と思われます。


「それにしても、ヴィルヘルミナ様のおかげで男の人たちが寄り付かなくなって楽になりました。女の子たちからの嫌がらせも無くなりましたし」

「ええ、まったく。これで少しは学府も平和になりますわね」


 逆ハー作ったと思われていたミィナさんでしたが、どうやらそれは彼女の本意では無かったようです。

 うざいのが居なくなって良かったと、本人たちが聞いたら心が折れそうなセリフを笑顔で言い放っています。


「大体何なんですかねアレ。人が興味ないって言ってるのに『照れなくていいんだよ』って頭わいてるんですかね。ローマンさんとか『ヴィルヘルミナさんが睨んでますよ』って言ったら『あいつに何かされたのか!?』って謎の超解釈ぶっぱしてきましたし」

「恋は盲目とは言いますが、確かにあの男どもは酷かったですわね。……まあ私たちの見た目のせいもあったのでしょうけど」


 ミィナさんは見た目儚げな守ってあげたくなる系で、ヴィルヘルミナさんは強気な悪役令嬢系。

 ミィナさんに惚れた野郎どもの中でどのようなシナリオが発生していたのか、実に分かりやすいです。

 もっとも渦中の二人はその男どもの暴走を「ないわー」と思いながら眺めていたようですが。


「でも本当に良かったんですの? それなりの地位にある殿方と結婚すれば、ご家族も喜んだのでは?」

「んー。私も玉の輿には興味あったんですけど、何か私の周りって気障ったらしい人ばっかり寄ってくるんですよね。あんなのと結婚するくらいなら、もっと一緒に居て落ち着くような平凡な人と結婚します。私自身養女ですから、お義父さんもそんなに結婚相手に口を出すつもりないみたいですし」

「まあ羨ましい。私の次の婚約者も、気が合う方ならよろしいのですが」


 他愛もない話をしながらお茶をする少女二人。

 今日も異世界は平和です。



「あーうー、やっと終わったぁ」


 一方高天原。

 天津神の主神であるアマテラス様が、畳の上で五体投地でへたれています。


「……確かに。今回は骨が折れましたね」


 そしてツクヨミ様も珍しく顔に疲労が出てしまっています。

 そこまで疲れていても姿勢は崩さず背筋が伸びている辺り、さすが隠れ中二病のかっこつけです。


「加護を消せってだけなのに、何であんなに抵抗するのかなぁ……。本人だって迷惑がってるのに。あのアフロ」

「価値観の違いでしょうね。あと変な略し方をしないでください」


 実はミィナさんの謎のモテっぷりは、オリュンポスの神であり愛の女神であるアフロディーテ様の加護のせいだったのです。

「大丈夫! 楽しいから! 絶対幸せになるから!」と言い張り加護を解除しないので、危うく日本の神々とギリシャの神々でラグナロクに突入するところでした。北欧関係ないだろとつっこんではいけません。


「ゼウスはゼウスで駄セクハラ神で役に立たないし、何でギリシャの神ってあんなのばっかなのぉ」

「……」


 愚痴るアマテラス様に対しツクヨミ様は「うちも大概だろ」と思いましたが、これ以上アマテラス様の心労が増すと不味いので口をつぐみました。

 大丈夫。ギリシャと日本なら日本の方が少しマシです。

 ……少しだけマシです!


「もう疲れた寝る」

「寝るなら布団にというか、寝る前にお風呂に入ってください」


 そのまま寝落ち宣言をするアマテラス様と疲れていても平常運転なツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。


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