冷やしアマテラス様
「私の魔力を電力に変換して発電所にしようとかいう計画提案されたんやけど」
「世界を滅ぼすつもりか」
「世界とな!?」
軽い気持ちでミィナさんに提案された魔王様家電計画をグラウゼさんに話したら、いきなり世界の危機を告げられて驚きの声をあげる魔王様。
やはりミィナさんこそが真の魔王だった……?
「え? どういうこと?」
「まず魔王様の魔力が私など足元にも及ばぬほど桁外れだという話はしたな」
「うん。やからちょっとくらい電力変換しても大丈夫かなと思たんやけど」
「その魔力は魔界という世界を支えるためにも使われている故、消費されすぎると魔界が消える。滅びるならまだしも消失したら余波で世界全体が歪みしっちゃかめっちゃかになる」
「しっちゃかめっちゃか」
自分の力が世界そのものを支えていると聞きビビる魔王様。
根は小市民だからね。仕方ないね。
「え。でもそれ先代さんが死んだ時点で魔界消えてないとおかしくない?」
「魔王様が死んでも今までに生み出した魔力はそのまま残留する故いきなり消失したりはしない。魔界そのものが魔王様の魔力の予備タンクとでも言えばいいのか。しかしそれもゆるやかに消えていく。だから我々は多少強引にでも新たな魔王を即位させる必要があったわけだ」
「何その重要な設定。初耳なんやけど」
「人間の耳に入れば色々と不都合だからな。先代からも聞かされたのは一部の幹部だけだったのだが、そういえば生き残っているのは私だけだったか。うっかりだ」
「うっかりで世界滅ぼしかけたん!?」
意外とおちゃめなグラウゼさんにつっこむ魔王様。
そもそもグラウゼさんはアマテラス様の逆召喚に自分からつっこんでいって返り討ちにあい帰れなくなったりと、割と筋金入りのうっかりさんです。
「まあ城内の施設に使う程度なら大丈夫だろうが、魔界全土に広げたり輸出するとなると危ういだろう」
「うわー。正直に話すわけにもいかんし、どうやってお断りしよ」
「城内の設備だけ揃えてもらって『キツイわー。これ以上は無理やわー』とでも言えば言いのではないか」
「何その誠意も何もない良いとこ取り」
日本の生活で丸くなったものの、やはり本質はちょい悪オヤジなグラウゼさんに呆れる魔王様。
今日も魔界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「部屋が寒い」
「いつかはこうなると思ってました」
「いやそんな『いつかやると思ってました』みたいなトーンで言われても!?」
どこか沈痛な表情で言うツクヨミ様とつっこむアマテラス様。
ツクヨミ様は割と真顔で冗談言うので一々本気で相手したらアカンタイプです。
「しかし寒いですか。設定温度の見直しくらいは流石の姉上でもやっているでしょうし」
「うん。それでもダメだからつけたり消したりしてるんだけど」
「それ一番電力食う運用ですよ」
たまに節約のためにと定期的にエアコンの電源を切る人が居ますが、エアコンが一番電力を消費するのは設定温度まで室温を下げる時なので、長時間外出するのでなければつけっぱなしで室温を維持した方が安上がりな場合もあります。
まあ今回の問題は電気代ではなくアマテラス様の体感温度だから関係ないけどな!
「まあ理由はいろいろ考えられますが解決方法は……」
「うん」
「扇風機をつけましょう」
「何で? 余計寒くならないそれ?」
ツクヨミ様の提示した解決方法の意味が分からず首を傾げるアマテラス様。
でも実際エアコンと扇風機を併用するのは結構有効です。
「直接体に当てるのではなく上を向けて使うんですよ。設定温度を変えても寒いということは一部にだけ冷気がたまってる状態ですから、室内の空気を循環させて室温を一定にしてやるわけです」
「あー前にツクヨミそんなこと言ってたような。でもそれもったいなくない?」
「扇風機の使用電力などエアコンと比べればたかが知れていますし、気になるならエアコンの設定温度を二、三度上げれば計算上はおつりが来ますよ」
「……計算したの?」
「しましたが?」
何かおかしいのかとばかりに首を傾げるツクヨミ様と、もしかして自分の弟もの凄く暇神なのではと疑うアマテラス様。
本神が動かなくても各神社には分霊いるしね。仕方ないね。
「まあ本来ならサーキュレーターの方が良いのですが、扇風機があるなら代用で構わないでしょう」
「サーキュレーターってあの小型の扇風機?」
「多分イメージしているのはそれであってますが、サーキュレーターは空気を循環させるためのものであり、扇風機のように直接人体に風をあてるものではありません」
「なん……だと……?」
ちょっとお洒落な小型扇風機だと思っていたものが扇風機ではなかったことにショックを受けるアマテラス様。
え? うち普通に扇風機みたいに使ってたんですけど?
「やわらかい風を広範囲に送る扇風機とは違って、強い風を一定方向に吹き付けるものなので、直接人体にあてるのはおススメできませんね」
「サーキュレーターかー」
「……扇風機あるから買いませんよ?」
「まだ何も言ってないのに!?」
ツクヨミ様に先手を取られ嘆く無駄に好奇心旺盛なアマテラス様。
今日も高天原は平和です。