タレ美味しいよね
「いやー。まさか異世界でウナギの蒲焼を食べられるとは思いませんでしたね」
そう言って笑顔でバクバクとウナギの乗せられたどんぶり飯をかっこんでいくイサオさん。
高齢者はウナギが好きな人が多く、そういった人向けのやわらかいウナギの蒲焼レシピもあったりするのですが、このハッスル爺にはそんな気遣いは必要ありませんでした。
「俺が言うのもなんだけど爺ちゃん食い過ぎじゃね?」
「別に後からキツイとかいう様子もないみたいだし、食が細いよりいいだろ。長生きするぞ」
一方そんなイサオさんの様子に呆れながらも、同じくウナギの蒲焼を食べているサロスくんとスクナヒコナ様。
どうやらイネルティアさんは、ちゃんとサロスくんとイサオさんの分もウナギを用意していたようです。
「しかし食いたいって言っといて何だけど、よくタレ用意できたな」
「醤油やみりんなど必要なものはありましたので。あとレシピは以前取り寄せた本から」
「あれベジタリアン向けのやつじゃなかったか」
「ええ。なので豆腐の蒲焼というものが」
「何その執念」
そこまでして食いたいものなのかと人間の食への執着心に呆れるスクナヒコナ様(おまいう)。
でも実際ベジタリアンでなくても、蒲焼のタレが余ってしまった場合には選択肢の一つとしてありだと思います豆腐の蒲焼。
「ん? じゃあエルフのやつらも豆腐で蒲焼食えるってことか」
「ええ。どうせスクナヒコナ様の口に入るものではないので、向こうで自分で焼かせています」
「なあ。何でイネルティアの姉ちゃんチビには甘いのに他にあたりキツイの?」
「むしろ貴方がスクナヒコナ様に気安すぎるのだと思いますが」
そうサロスくんに返すフィデスさんですが、当のスクナヒコナ様があまり気にしてないようなので強くは言わない空気が読めるエルフです。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「二の丑の日!」
「はいはいウナギウナギ」
高らかに二の丑の日を告げるアマテラス様と、てきとーに返すツクヨミ様。
丑の日の丑というのは十二支を日に当てはめたものであり、土用は約十八日間なので、年によっては土用の間に丑の日が二回巡ってくることもあります。
ちなみに2020年は7月21日と8月2日が夏の土用の丑の日となります。
だからウナギ話が連続せずに一週あいたんですね(そこまで考えて書いてない)。
「まあ最近では丑の日が二度来るならウナギも二度食べていいだろうという考えもあるようですが、そんなに何度も食べたいものですか?」
「ええ? むしろ何でツクヨミそんなクールな反応なの。美味しもの食べるの好きでしょ」
「トヨウケヒメが作るものは全て美味しいですから」
「どう聞いてものろけなのに同意しかできない」
いきなり真顔で彼女の料理自慢をしてくる弟に、事実その通りなので同じく真顔でしか返せないアマテラス様。
時の天皇の枕元に立ちトヨウケヒメを呼び付けた張本人なので反論の余地とかありません。
「でもそうだけどそうじゃなくて、こう雰囲気も込みでこその食事というか!」
「ちゃんとウナギ用意していますよ」
言葉にならない思いを叫ぶアマテラス様に、ひょいと台所から顔を出して言う流石のトヨウケヒメ様。
アマテラス様の食べたいものを知り尽くしています。
「流石トヨちゃん結婚して!」
「すいません先約がありますので」
「……義妹か」
「……その目やめてください」
「分かってるよ」的な目で見てくる姉に、珍しく居心地悪そうに返すツクヨミ様。
そもそも義妹も何もトヨウケヒメ様はイザナミ様の孫にあたるのでアマテラス様の姪なのですが、それ言いだしたらツクヨミ様は姪っ子に手を出したということになるわけで。
神様ならよくあることだな!(イザナギ様とイザナミ様は兄妹)
今日も高天原は平和です。