最終手段カタログギフト
「父上。プレゼントです」
「いきなりどうしたんだい?」
大陸の中央部にあるドワーフ王国にて。
予想以上に皇帝陛下にこき使われて忙しそうだった次男が、いきなり訪ねて来たと思ったら、綺麗にリボンで包装された袋を差し出して来て戸惑うデンケンさん。
一方カレンダーを見て「あー」と察する店長のジュウゾウさん。
でも貴族親子の会話とか恐いから混ざらない、相変わらずのチキンハートです。
「日本ではもうすぐ父の日という父親に感謝する日なので。こちらにはそんな風習ないのでスルーしようかと思いましたが、もうすぐ家を出ることになるので感謝を述べるならいい機会かなと」
「まず家を出ることについて正式に報告されてないんだけどね」
「……婚約しました」
「うん。遅いよ」
既に兄が当主の座を継いでいるので、諸々の手続きがそっち行ってて肝心の父親に報告するのを忘れていたうっかりローマンさん。
なお話自体は弟のうっかりっぷりにある意味安心したお兄さんがきっちり通しています。
それでこそローマンさんだぜ!
「しかしインハルトのとこの娘さんとの婚約を蹴ってねえ。相手が武官の娘さんというのは君らしいけど」
「私らしいですか?」
「尻にしかれるタイプってことだよ」
「失敬な」
そう文句をいうローマンさんですが、実際ヤヨイさんはヤヨイさんで結構ポンコツなので、読者にアンケートとったら意見は分かれそうです。
「ではこれで」
「おや。何か食べていかないのかい?」
「今日は転移魔術を使える者に我儘を言って寄ったので。暇ができたらまた改めて来ます」
「了解。一食くらいなら僕が奢るから気軽においで」
そう言って久々に会ったのにあっさりと別れを告げるデンケンさん親子。
男親と男子なら大体こんなものなのかもしれません。
「しかしプレゼントねえ」
「貴金属の類じゃないみたいだね」
ローマンさんから渡された袋を見ながら呟くデンケンさんと、ひょいと背伸びして覗き込むバーラさん。
しばらく迷った素振りを見せたデンケンさんでしたが、やはり中身が気になるのか、リボンを解いて袋の中身を取り出します。
「これは……エプロン?」
「へえ。生地もしっかりしてるし色もデンケンさんに合いそうですね」
「貴族様のプレゼントにしては庶民的だけどねえ」
出てきたのは群青色の男性向けのエプロン。
オーダーメイドなのか裏にデンケンさんの名前まで入っています。
「……こんなの汚れたらもったいなくて使えないじゃないか」
「使った方が息子さんも喜ぶと思いますよ」
「こっちはこっちで貴族らしくないね」
突然の中年オヤジのデレ(誰得)。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「今年の父の日は変化球で攻めようと思うんだけど」
「それプレゼントの話であって、また捕獲作戦とか考えてませんよね?」
PCで何やら検索しながら言うアマテラス様と、念のため確認するツクヨミ様。
なお世間では今日が父の日だと勘違いする人が一定数いる模様。
「流石に毎年お酒って言うのもねー。お父さん美味いとは返事くれるけど実際好みに合ってるのか分からないし」
「辛口の方が好きだと言ってましたよ」
「……だから何でツクヨミとはさらっとそういう話するの!?」
「父上なりに姉上に気を使ってるのでしょう」
相変わらず自分ほっぽいて、父親と頻繁に会ってるらしい弟の肩を掴み、激しくシェイキングするアマテラス様。
一方ツクヨミ様揺さぶられながらも冷静な回答。噛む素振りすらありません。
「しかし酒以外でですか。趣味の品……といっても趣味らしい趣味はないようですしね」
「あ、この牛乳プリン美味しそう」
「飽きないでください」
自分から話しをふっておいて意識がそれてるアマテラス様につっこむツクヨミ様。
プリン美味しいからね。仕方ないね。
「まあお菓子でもいいのではありませんか?」
「え? お父さんに? 食べるかなあ?」
「普段食べないようなものをこそプレゼントした方が、印象に残るのではないですか。別に父上は甘いものが嫌いなわけではありませんし」
「だからツクヨミそういうとこ」
さりげなく父親の好み把握してますアピールしてくるツクヨミ様に嫉妬するアマテラス様。
今日も高天原は平和です。