うどんやラーメンに入れるとちょっと贅沢な気分
「そういえば香辛料の類をこんなに安く売って良いんですか?」
「それジュウゾウさんが言いますか」
そう返しながら、商品を届けたついでに奢りで作ってもらった蕎麦をずぞーっとすするミィナさん。
外国人の中には日本人が蕎麦をすする音が苦手な人も居るそうですが、ドワーフはそんなこまけぇこたぁ気にしないので大丈夫です。
「多分ジュウゾウさん下手に香辛料のこと知ってるから誤解してますよ。こっちだと香辛料の類はそれなりに貴重ですけど、地球の中世みたいに目ん玉飛び出すような代物じゃないです」
「え? でも以前取り寄せていたものはそれなりに値が張りましたよ」
「ああ。それぼったくられてますよ」
「なんと!?」
今更騙されていたと知り驚きの声をあげるジュウゾウさん。
異世界の市場価格とか把握しているわけがないので仕方ありません。
ちなみにミィナさんが言っている通り地球の古代・中世ヨーロッパでは香辛料、特にコショウは貴重品であり、同じ量の金と取引されていたとすら言われています。
某世界地図が地球に似ているRPGでコショウ持っていったら舟譲ってくれるのは、単に王様がグルメなだけではなくそういう歴史的な背景を基にしたものなのです。
「と言っても、ぼったくられてるのジュウゾウさんだけじゃないんですよ。香辛料関係は一つの商会が売買を独占しちゃってて、実際の原価やコスト無視して高値でふっかけるのが常態化してるんです」
「え。じゃあウェッターハーン商会が、こちら本来の適正価格だとしても、別ルートで香辛料の販売をしてたら恨まれませんか?」
「適正価格で売ってない向こうが悪いんだから知ったこっちゃねえです」
「うわあ……」
恨むなら恨めと言わんばかりに男前な発言をするミィナさんに、この子何があってこんなになっちゃったのとドン引きするジュウゾウさん。
多分アフロ様のいらん加護のせいでいらん愛憎買いまくったせいです。
「まあ潰すことになっても、香辛料が栽培できる場所が貴重なのは確かなのでこっちで確保したいですね」
「潰すって言っちゃったよ」
何故自分と知り合う女性は恐……強い人ばかりなのかと悩むジュウゾウさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「ツクヨミー。電子レンジでお手軽に温泉卵が作れるらしいよ」
「それ姉上がやったら爆発させるやつでしょう」
キラキラと目を輝かせて言うアマテラス様に対し「やるなよ。絶対やるなよ」と待ったをかけるツクヨミ様。
温泉卵美味しいからね。仕方ないね。
「電子レンジに卵とか料理下手のお約束ではありませんか。どこから聞いて来たんですか」
「だってここに書いてあるんだもん」
「書いてますねー。最後に『加熱しすぎたら破裂するので注意』と」
アマテラス様が見せて来たネットのページを見て冷静に返すツクヨミ様。
実際電子レンジ温泉卵については、レシピサイトによってはマジで「加熱しすぎると破裂する」と書かれているので、真似するなら慎重にやりましょう。
作者もやってみましたが、出来上がりをカップから直で食べようとしたら予想以上に熱くて火傷しました。
「まあ殻がないだけでも爆発する可能性は低いし、爆発しても威力は低いでしょうが」
「でしょう! だからいいじゃん。やってみたいし食べてみたい」
「はあ。トヨウケヒメの監督下でなら構いませんが」
そうして始まったアマテラス様の温泉卵作り。
電子レンジを覗きつつも、加熱された卵がポンと音をたてるたびにビクッと震えるアマテラス様に、癒されるツクヨミ様とトヨウケヒメ様。
今日も高天原は平和です。